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北大工学研究院 VRシアターへの道■札幌国際芸術祭 IEIE, Reflected: Phase 4|Virtual Ground (2024年2月17、18日、札幌)

2024年02月18日 00時04分28秒 | 札幌国際芸術祭
 行ってきました。

 IEIE ってなんだ?
 会場は北大の工学研究院ってあるけど、たどり着けるの?
 副題は「去年、鴎島で」じゃなくて「去年、鷗島で」と、正しい漢字で書いてくれないかな?

…と、見る前は不安と不満がにじんでいたのですが、会場にはあっさり着くことができました。

(ちなみに、IEIE とは、“Island Eye Island Ear” の頭文字。SIAF のサイトには「1974年にデーヴィッド・チュードア、中谷芙二子、ジャクリーン・モニエらがE.A.T.のサポートのもとで構想し、長期にわたって取り組んだものの実現には至らなかった、孤島を丸ごと楽器化するという壮大なスケールのコンサート計画です。」と説明があります。中谷さんは宇吉郎の娘で札幌生まれ。2014年の札幌国際芸術祭で「霧の芸術」を発表した前衛芸術家です)



 順路はかんたんです。

 地下鉄南北線の北12条駅を降りて、北海道大学のキャンパスに入り、有名なイチョウ並木を西に向かって歩きます。



 北大キャンパスの中央を南北に貫くメインストリートを渡ると、正面右手に、工学部の建物が見えてきます。

 6階だか7階建ての、モダニスムの権化のようなビルディングです。



 そちらには行かず、正面左手へ行く道に入るとすぐに
「共用実験棟 都市建築スタジオ棟・オープンラボ」
という、ガラス張りの2階建てが現れます。



 2階部分が空中に突き出していて、崩れてきたりしないのかな? と思っちゃいます。



 実は、この玄関よりも、少し右手(西側)にある入り口から入ったほうが、話がスムーズです。
 右手入り口から、階段をすぐに2階に上ると、VRシアターがあります。



 直径8メートル。
 周囲360°を映像が取り囲む、斬新な体験ができます。
 
 
 
 ここで上映されるのは、昨年11月、マリエンバードならぬ檜山管内江差町の「かもめ島」で撮影されたもの。
 現地に特殊なスピーカーを持ち込み、そこで音を流しながら撮っているので、映像では見えない汽笛やカモメの鳴き声なども入っているそうです。脳がバグりそうですが、先日の大通公園2丁目ほどの衝撃はありません。

 映像は1本30分で、かもめ島全体を一周するのに4本分かかっています。つまり、全部見ようとすると2時間かかるらしいです(筆者は30分弱で出てきた)。
 撮影時に持ち込んだ、指向性の強い特殊な筒型のスピーカーは6台あり、全方向が撮れるカメラの位置に応じて、設置場所を移しています。同じスピーカーが2台、会場に真向かいに置かれて、映像にも登場するのはおもしろく感じられます。
 会場内のスピーカーは、片方はほとんど無音で、もう片方からは女性のしゃべり声がずっと続いていました。ニシン漁や江差追分、画面に出てくる千畳敷などについて話していたようですが、指向性が非常に強いので、はっきりとはわかりません。

(これはネタバレになりますが、女性の声などは、会場内の特殊なスピーカーからではなく、スクリーンの後ろ側に置いてあるスピーカーから流れています)


 1960~70年代に花開いた前衛芸術へのリスペクトというのは、これまでも札幌国際芸術祭を含む多くの芸術祭で表明されていますが、今回のSIAF2024ではこれがほとんど唯一かなという気がしています。
 ただね、個人的には、もともとのチュードア(米国人の前衛音楽家なのに、なぜか日本では「チューダー」ではなくドイツ語っぽく表記されることが多い)の
「孤島をまるごと楽器化する」
っていうのが、なんかなじめないんですよ。西洋的な強引さというか、全能感というか、自然を人間が思うままにエイヤッと変えてやるぜっていう、そんなノリを感じてしまうわけです。
 SIAFラボでは、道内の無人島をあちこちまわったり、札幌のモエレ沼で実現できないか現地で調査したり、長年にわたって取り組みを続けていたようですが。

 2020年代のいま、人間やアーティストがすべきことは、多大な労力をかけて自然を改編することではなくて、前回の札幌国際芸術祭SIAF2017での鈴木昭男点音おとだて」のように、その場に存在する音そのものを肯定していくことではないかと思うのです。

 島に立って、耳を澄ませば、きっと何かの音が聞こえます。
 波が砕ける音かもしれないし、鳥の鳴き声かもしれません。
 あえて楽器を持ち込まなくても、それが島の音楽なのです。

 
 なお「VRシアター」ですが、ゴーグルなどをかける面倒がありません。
 その分、だれが見ても同じ映像で、ゴーグル型バーチャル・リアリティーのような没入感もないです。
 そのため芸術祭でよくあるマルチスクリーン型作品に似ていると言えば似ています。

 あと、もうひとつだけ書いておくと「Virtual Reality」という語は、チュードアのパートナーだった詩人が彼に勧められて手がけた演劇論の英訳の中で、最初に登場するのだそうです。


2024年2月17、18日(土・日)午前10時~午後5時
北大大学院工学研究院(札幌市北区北13西4)


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