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池澤夏樹のトポス(11月26日まで)

2006年11月26日 10時41分36秒 | 展覧会の紹介-写真
 筆者は池澤夏樹の良い読者ではない。
 でも、そうした人でもたのしめる展覧会だと思う。
 文学館の展覧会というと、自筆原稿とか古い本とか、地味な印象がある。でも、今回は、池澤夏樹が世界で撮った写真が壁せましと展示されており、おもしろかった。
 ほんとうに、この人は「旅する作家」なんだなあと思った。

 彼の写真の腕がなかなかのものなのは、読売新聞連載の小説に毎日、じぶんで撮影した写真を添えていることからも知っていた。
 でも、あらためて見ると、北海道、沖縄、南洋、インドネシア、イラク、欧洲など、その土地土地の空気感がつたわってくる、いい写真だった。もちろん、職業写真家が撮るような本格的なものではないのだが、それでいいのだと思う。

 筆者が最初に池澤夏樹の名前を知ったのは、1970年代後半の「現代詩手帖」だった。彼はエジプトを題材にした詩を書いていた。
 だから、今回の展覧会が、ナセル湖など、エジプトを撮った写真で始まっているのは、なつかしかった。

 つぎに彼の名に親しむのは、80年代の北海道新聞日曜版である。
 当時、日曜版の2面には、池澤夏樹と出久根達郎がエッセーを連載していた。
 どちらもめっぽうおもしろく、日曜版をひらくのが楽しみだった。
 池澤は芥川賞をとる前だし、出久根は直木賞をとる前で、一般には名前を知られていないのだから、そのころの北海道新聞の目のつけどころのよさには、筆者が言うのもなんだけど、脱帽してしまう。
 なお、そのときの連載のエッセーは現在、みすず書房から「読書癖」という題で出版されている。

 それにしても、これだけ豊富な読書経験を有する作家が、これほど転居と旅を重ねているというのは、ふしぎでしかたがない。
 蔵書は、いったいどうしているのだろう?

 じつは筆者は、1度だけ池澤氏にお会いしている。
 5年ほど前だったと思うが、筆者の職場を訪れたのだ。
 デスクがインタビューして、筆者は横でそれを書き写していた。
 どうして沖縄に移り住んだのか-といった話をしていたと思うのだが、どういうわけか、そのときの記憶はほとんどない。

 その後「イラク戦争」が起こった。

 彼は本橋成一とともにイラクに飛び、「イラクの小さな橋を渡って」を書き、短編映画「DO YOU BOMB THEM?」を制作した。
 この17分間のビデオは会場で流れていた。
 市場や、食堂や、古本市が写っていた。遊園地も。
 そうだ。イラクにも遊園地があるのだ。
 いまでもあるのだろうか。

 池澤夏樹は、イラク戦争に反対した。彼なりの意思表示を、きちんと行った。
 筆者は、それだけでも偉いと思う。

 あれから3年。
 イラクは混迷の度を深めている。

10月14日(土)-11月26日(日)9:30-17:00(入場は-16:30)
道立文学館(中央区中島公園)


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