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■札幌美術展 佐藤武 (2021年10月9日~22年1月10日)

2022年01月18日 10時16分26秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 すみません、会期が始まったころに見ていながら、とうとう会期中にブログ執筆が間に合いませんでした。

 言い訳がましいことを書けば、要するに、あまりにすばらしくて、どんなことばを紡いでも絵には勝てっこないなと、しみじみと感じたからです。

 ちょっと美術史的な話をすると、近代の絵画は「いかに描くか」という課題にそってさまざまな流派や描法を生んできました。
 一方、現代アートは、現代社会に即したテーマやコンセプトがことばで明確に語られることが多いです。もちろん「ことばで語り尽くせないもの」がまったく無い作品は、アートとしては物足りなくなりがちなのですが、それでも、ことばの占める比重が高まっていることは否定できません。

 そんな中で、佐藤武さんの作品は、正攻法な絵画でありつつ、現代アートの潮流からは外れています。
 手っ取り早くいえば、非常に哲学的で思索的です。
 人間はほとんど描かれていないのに、人生とは、生と死とは、ということを、見る人にしみじみと考えさせる絵なのです。
 しかし、その画面が、哲学の概念や人生論の絵解きになっているかといえば、そんなことはぜんぜんありません。
 言い換えれば、これほど文章や文学と遠い地点で成立していながら、技法の特殊性などのアピールとも無縁な絵画作品というのは、きわめて珍しいといえるのではないでしょうか。

 ムンクの最盛期の絵やゴーギャン「われわれはどこから来たのか…」、ジャコメッティの人体など、近現代の絵画や彫刻で、わたしたちの生と死への考究に導く真摯かつ深い内容を蔵したものは、たしかにいくつか思いあたります。
 でも「枚挙にいとまが無い」とまではとうてい言えないでしょうし、「人間を描かずに人間の生と死を考えさせる」絵画は、少なくとも筆者にはほとんど思いつかないのです。

 佐藤武さんの絵画世界は、一時の流行を超えた、たいへんな長い射程と広がりを宿している。
 そうとしか、言いようがありません。





 さて、筆者は、画家の回顧展が大好きです。
 初期の絵から近作までがあるので、この作り手がどういう道を歩んできて近年の画風を完成させたのかを、たどることができるからです。

 佐藤武さんは、驚くことに絵は独学とのことです。
 初期には、おおまかに「幻想派」とでも区分できそうな絵画の影響を受けていることは否定できません。
 上の絵にはブリューゲルの引用がありますし、マグリットやボスなどにも近いものを感じます。
 それらの画家は、いうなれば、写実的に眼前の対象を描きながらも目に見えない「何か」、対象の向こう側にある「何か」を、絵を見る人に感じさせる人たちだといえるかもしれません。

 
 すでに知られているとおり、佐藤武さんの画業のなかで決定的な転換点となったのが、荒巻義雄さん(SF小説家、札幌時計台ギャラリーのオーナー)とともにしたインド旅行でした。

 18世紀から建設されたジャンタル・マンタルの天体観測施設がモティーフになっているようですが、佐藤さんが並みの画家でないのは、そのモティーフのおもしろさを描くにとどまらず、周辺の都市の廃墟なども併せて、現実とも幻想ともつかない風景を描き出しているところです。
 佐藤武さんの絵画世界は、長い時間の経過を包蔵しているかのような、いわば永遠につながっているような感覚をたたえ始めます。

 繰り返しっぽくなりますが、彼ほど
「永遠の時」
を感じさせる絵画を描く画家は、広く見渡してみても、ほとんど思いつきません。「永遠」とことばにしてしまうといささか陳腐な感じがしますが、それ以外に言いようのない感覚です。
 そして、これは早すぎる断定かもしれませんが、佐藤武さんの絵も、かなり長いこと、後世に残っていくのではないかという気がするのです。


 会場には陶による立体もありました。
 写真の腕もくろうとはだしで、すでに写真集も出しています。










 冬の静かな美術館で、静かに向き合う。
 そんなたたずまいがふさわしい、すばらしい展覧会でした。


2021年10月9日(土)~22年1月10日(月)午前9時45分~午後5時(入館は4時半)、11月第2週から月曜休み、12月29日~1月3日も年末年始で休み
札幌芸術の森美術館(南区芸術の森2)

一般千円(800円)、65歳以上の年齢を証明できるものを持ってきた人800円(640円)、高校・大学生700円(560円)、小中学生400円(320円)
かっこ内は前売り、20人以上の団体料金
小学生未満、障害者手帳所持者(付き添いの1人含む)は無料


□画家 佐藤武のホームページ https://tsart1113.wixsite.com/tsart1113

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2 コメント

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Unknown (木滑美恵)
2022-01-18 23:24:39
今回佐藤武展を観させていただき梁井さんの言葉ひとつ、ひとつが本当にその通りだと感じました。札幌から帰って来てからも暫く今も余韻が残り北海道にこんなに素晴らしい画家が現役で活躍されている事に心から尊敬の念を持ちます。
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木滑さん、こんにちは! (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2022-01-19 07:51:46
コメントありがとうございます。
ごらんになったんですね。
本当にすばらしい個展だったと感じてます。もっと早くこの記事を書いて、多くの人に見にきてもらいたかったですが、ほとんど誰もいない冬の美術館というのもすてきでした。にぎやかな夏の美術館より、佐藤武さんの絵に合っていたように思いました。
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