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あいちトリエンナーレの補助金、文化庁が減額して交付を決定

2020年03月26日 12時03分03秒 | 新聞などのニュースから
 遅くなりましたが、大事な話なので、書いておきます。
 NHKが3月23日夕方に速報を打ち、新聞各社が追いかけました。間もなく、愛知県知事が記者会見を開きました。

 この件については、文化庁が支出しないと決めた昨年9月に、いろいろ書きました。次の2本のリンク先(とくに前者)を参照してください。

あいちトリエンナーレ2019への補助金全額不交付のこと
2019年9月26日のツイート (1) あいちトリエンナーレ補助金不支出問題のリツイート多数含む


 NHKのサイトをみると、異例の長さの記事がありました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200323/k10012345261000.html

 著作権法違反になるかもと思いつつ、マスコミはサーバ容量の関係ですぐ記事を削除してしまうので、記録のために最後のほうに全文をコピー&ペーストしてあります。
 また、美術手帖ウェブや論座web にもリンクを貼りました。こちらは、すぐに記事がなくなるということはおそらくないと思います。

 もう昨年の話だからなのか、あるいは、コロナウイルスや東京五輪延期でそれどころではないのか、新聞各紙の扱いはそれほどでもなく、朝日新聞が第2社会面で、この分野(憲法と表現の自由の関わりなど)に詳しい志田陽子さんの談話も入れてそれなりの大きさで取り上げていたのが目立つぐらいでした。

 じつは、すでにご承知の方も多いでしょうが、この国と愛知県のバトル(?)は、表現の自由と憲法をめぐって正面から論議されていたものではありません。
 国(文化庁)側はあくまで
「こんな混乱を招くような展示について事前に何も言わなかったのはよろしくない」
という理屈で、お金を全面的に差し止めようとしたのです(カギカッコの中は、筆者による意訳です)。
 表現そのものが良くないーとホンネを主張すると、話が長引くとでも思ったのでしょうか。姑息なやり方ともいえます。

 それに対して愛知県側は
「そんなこと、事前にまったく聞かれてもいないし、申請書に書く欄もない。無理ゲーだろ」
と反論し、不服申し立てをしたわけです。
 つまり、手続きの技術論レベルの対決になっていたわけです。

 文化庁も愛知県知事もくわしい内実は明かしてはいませんが、このままだと訴訟は避けられないという段階になって、何らかの「手打ち」、いいかえれば、政治的な決着が行われたもようです。
 減額を申し出てたのは、愛知県側だったという報道もあります。

 筆者が長期間にわたって紹介してきたように、あいちトリエンナーレは全体としてすばらしいものでした。
 したがって、百歩譲って「表現の不自由展その後」に問題があったとしても、わずか全体の1%の展示が騒ぎになったからといって、交付金全額を支出しないというのは、後出しじゃんけんとしてもまったく筋が通らないことでしょう。裁判になったら国が負ける可能性は高かったのではないかと思われます。


 今回の決着にはとりあえずホッとしました。
 しかし、くつがえされたとはいえ、一度こういう方針が示されたことで、各方面を威圧する効果はじゅうぶんあったようです。
 今年9~11月に開かれる「ひろしまトリエンナーレ」に関しては、広島県が出品作の展示の可否を検討する委員会を設置する方針を打ち出しました。これは、事実上の検閲ではないかという指摘が出ています。
(参照: https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/21442 ) 

 早い話、皇族を題材にするなど、なんだか議論になりそうな作品は、この種の芸術祭やトリエンナーレで取り上げられる可能性がかなり低くなってしまったということです。
 文化庁がやってしまったことは
「ごめん、やっぱ最初の約束通り、お金はだすわ」
という結論になったとしても、この国の文化行政にとって窮屈な前例になったといえるのではないでしょうか。


 先回りして書いておきますが、言論・表現の自由はすべてに優越するものではなく、差別的だったり、名誉毀損の内容だったり、犯罪をそそのかすおそれのあるものは、許されません。
 しかし、そういうもの以外は、なるべく自由であることが、現代世界のスタンダードだと思います。
 まして、政治家や知事、市長といった行政の権力者が
「こういう内容の作品だからダメ」
と選別する権限はありません
 また
「こんな作品は気に入らないから税金を使うな」
という論法にも注意が必要で、筆者はむしろ、公的な会場での発表や、税金を使った展示だからこそ、表現の自由は最大限守られるべきだと考えています。
(「オレが気に入らないっていうことではない。みんな、ダメだと言っている」とか「日本人すべてが不快に思うはず」みたいな、突然主語をでかくする論法は、相手にしません。日本国憲法は、検閲を禁止し、また、国民が健康で文化的生活をおくる権利を保障しています。筆者はスポーツにあまり興味がありませんが、だからといって、税金で体育館を造ったり健康教室を開いたりするな、自分のカネでアスレチッククラブに通え、などとは主張しません)

 もちろん、税金ですから、その使途としてアートとか芸術祭ってどうよ? という議論はなされて当然でしょう。
 欧洲や韓国に比べて芸術への公金支出は相当少ないという現実はあるようですが…。
(話はそれますが、日本は公教育への支出も先進国では最低クラスで、いったい税金をなんに使っているのか不思議です)
 筆者も「公共性」ということについて、もっと学ばなくてはと思っています。
 

「あいちトリエンナーレ」補助金 減額交付を決定 文化庁

2020年3月23日 19時06分 


慰安婦を象徴する少女像など、一部の展示が中止された愛知県の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」への補助金について、文化庁は全額不交付とした決定を見直し、減額して交付することを決めました。
去年、愛知県で開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」では、「表現の不自由」をテーマにした企画展で、慰安婦を象徴する少女像や天皇をコラージュした作品などに抗議が集まり、展示が一時中止されました。

文化庁は、この芸術祭への補助金およそ7800万円について、愛知県側が会場の安全などを脅かすような重大な事実を認識しながら申告しなかったなど手続きに不備があったとして、去年9月、全額不交付にする決定をしました。

これに対して愛知県側は、補助金適正化法に基づき文化庁に不服を申し出ましたが、審査の中で愛知県側は、展示会場の安全性などに懸念がありながら事前に報告しなかったことは遺憾だったと認め、それにかかった経費などを減額して再申請しました。

このため文化庁は補助金を6600万円余りに減額して交付する決定をしました。

文化庁が、いったん採択した補助金を全額不交付としたことは当時、異例とされましたが、今回はその決定を見直したことになります。

この問題をめぐっては、芸術祭に補助金を出すことを採択した文化庁の外部委員が不交付決定に抗議して、辞任したり芸術家や大学教授らが抗議声明を出したりしていました。

専門家「一つの落としどころか」

文化政策が専門で文化庁の審査委員も務めた静岡文化芸術大学の片山泰輔教授は「現代アートは議論を呼ぶ作品があってしかるべきで、今回のような事案は起こりえた。当時の文化庁の判断は不自然で公平性を欠いていたと思うが、今回、判断を見直したことは、愛知県や文化庁の両者にとり一つの落としどころだったのではないか」としています。

そのうえで「今後は同じような企画が行われる場合、主催者がどのような対策を行えば補助金が交付されるのか、現場が萎縮しないよう、ある一定の基準を示すべきだ」と話していました。

文化庁「かしある判断だったと思っていない」

文化庁は、23日夜、会見を開き、愛知県の国際芸術祭、「あいちトリエンナーレ」に補助金を減額して交付決定したことについて説明しました。

このなかで今回の見直しについては、先月、愛知県側から『一部交付を受けたい』という打診があったとしたうえで、「あくまで、愛知県側からの新たな申請を受けて、適切に判断した結果だ。個別の展示内容や表現を評価したわけではない」と説明しました。

一方、当時の全額不交付の判断が、適当だったかと問われると、「われわれとしては、法令に基づいて適切に判断していた。当時も今もかしのある判断だったとは思っていない」と述べました。

愛知県 大村知事 裁判を見送る考え

愛知県の大村知事は記者会見で「双方で協議し、愛知県側から『文化庁にもご心配をおかけしたことを大変申し訳なく思っていて、今後はこれまで以上に連絡を密にするとともに安心安全かつ円滑な運営に留意する』などと表明した。文化庁側からも『十分な意思疎通が図れなかった』という表明がなされた。こうした状況から折り合ったということだ」と述べました。

そのうえで、文化庁が去年9月に補助金を全額交付しないと決めた際に「法的措置を講じ、裁判で争いたい」と述べたことについては、文化庁の決定を受け、裁判を見送る考えを示しました。

また補助金が減額されたことについては「特に感想はない」と述べました。

「あいちトリエンナーレ」とは

「あいちトリエンナーレ」は、愛知県などが3年に1度開催している国内最大規模の国際芸術祭です。

去年はジャーナリストの津田大介さんが芸術監督を務め、国内外から90組余りのアーティストを迎えて8月1日に開幕しました。

文化庁は、愛知県からの申請を受けて、この国際芸術祭に、去年4月、観光資源としての文化の活用推進を目的とした補助事業としておよそ7800万円の補助金を出すことを採択しました。

しかし国際芸術祭のうち「表現の不自由」をテーマにした企画展で、慰安婦を象徴する少女像や、天皇をコラージュした作品などに抗議が集まり、展示が一時、中止される事態となりました。

文化庁は去年9月、申請の手続きなどが不適切だったとして、採択していた補助金を全額交付しないことを公表しました。

これに対して愛知県の大村知事は「問題とされた企画展は106ある企画の1つで、予算も全体の0.3%にすぎない。全額不交付は裁量権を逸脱している」と抗議して、去年10月、文化庁に不服の申し出を行っていました。

この不交付の決定については、文化庁の外部委員が相次いで辞任したり、芸術家のグループが署名を持って文化庁に抗議したりする動きも広がっていました。



美術手帖 あいトリ補助金「交付」にアーティストたちの反応は? 「萎縮せず議論の場をつくり続ける」 https://bijutsutecho.com/magazine/insight/21564

Web 論座 「表現の不自由展・その後」の問題はまだ解決されていない ーあいちトリエンナーレのあり方検討委員会の報告書は疑問点や問題だらけ https://webronza.asahi.com/national/articles/2020032100001.html


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