札幌在住で、石狩市厚田にアトリエを持つ画家の佐藤武さんが、還暦を機に、ここ四半世紀の画業を振り返る個展を、時計台ギャラリーの2階全室を借りて、ひらきました。
記念すべき個展なので、画像もふだんより大きめにしてアップしてみました。
インドの、無人の広壮な建物をモティーフに、破壊と再生の思いを込めて描きつがれた大作群は、圧巻でした。
冒頭の画像は、近作の「雨上がり」3点のうちの1点。
佐藤さんの絵の特徴だった、“建物の崩落の一瞬”の描写は影をひそめ、巨大な石塊が空中に浮遊して、見る者に圧迫感をあたえます。
下方に描かれた風景はひろがりを増し、「I」では集落が、「II」では川が、「III」では乾燥した大地が、それぞれ題材になっています。
「いつ落ちてくるかわからない不安のようなもの」
と佐藤さんは、絵の意図を話しておられました。
つぎの作品は「予感」。
佐藤さんの今回の出品作の、ひとつの典型を示しています。おなじタイプの絵が、何枚もありました。
ちょっと画像がゆがんでいて、申し訳ありません。
この絵でわかるとおり、建物の崩落は、ダイナミックであると同時に、音もなく起きているという印象があります。
あるいは、崩落中の一瞬間で、時が静止してしまったかのような。
動と静という相矛盾したものが、何の違和感もなく同居しているのが、佐藤さんの絵の真骨頂ではないかと思います。
わたしたちの住んでいるところとは遠く離れた世界の出来事でありながら、しかし現代人の心理を反映しているようでもあります。
つぎは、一転して静けさの世界です。
キャンバス3枚をつなげた大作「遠い記憶」。95年の作品です。
手前に大きな池が配されています。これだけ広い水面が登場するのは、佐藤さんの絵ではめずらしい。
中央の紙片と左右の紙飛行機は、いずれも楽譜です。中央のを見ると
SUITE III violincello
J.S.Bach
と表題がありました。あの有名な、バッハの「無伴奏チェロ組曲 ハ長調」です。
画像では見づらいかもしれませんが、画面左上から中央にかけ、空に飛行機雲のようなものがかかっています。
佐藤さんは東京で何度も個展を開いていますが、ちょうどイラク戦争のころに開催したことがあり、たまたま入ってきた西洋人の若い女性が、「Iraq?」「missile?」と聞いてきて、早口の英語で感想をまくしたてたことがあったそうです。
「こっちは、英語わかんないし、困ったよ。ノー、ノーって言った」
最後に画像を紹介するのは、1984年作の「悠久の大地」です。
これ、今回の出品作の中で、筆者のいちばんの好みなんです。
破壊・崩落は、佐藤さんの絵の重要な要素ですが、一方で、この絵のような、おだやかな祈りの世界も、欠くことはできません。
筆者はこの絵を見ると、言いようのない安らぎをおぼえます。
まるで、魂が還ってゆく場所のようです。
佐藤さんは20年ほど前、通り魔に襲われて頭にけがを負ったことがあるそうです。今回展示したような作品世界は、その入院中にひらめいたとか。それ以前は、裸婦を手かげていた時代もあったといいますが、筆者は未見です。
佐藤さんの世界をたっぷり堪能できた個展でした。
紹介がおくれたことをおわびいたします。
出品作は次のとおり。
83年「見張り台」(41×32)
「予感」(10F)
「予感」(46×53)
「記憶」(80×160 三角形)
「旅愁」(91×91)
84年「秋の詩」(117×91)
「記憶」(97×146)
「不安な時代」(73×91)
「暮れゆく時」(73×91)
85年「真昼の幻想」(112×146)
「錯覚と停止した瞬間との出会い」(91×117)
86年「春の予感」(97×146)
「予感」(112×146)
87年「予感」(117×117)
89年「予感」(80F)
91年「不安な時代」(162×162)
「明」(62×165)
93年「遠い記憶」(30×60)
「夜の秋」(91×91)
「停止した時間」(162×112)
94年「記憶」(165×165)
95年「遠い記憶」(162×380)
「時」(165×165)
98年「都市の記憶」(180×224)
99年「夕暮の寺院」(70×140)
01年「時」(13×6)
「不安な時代」(130×194)
02年「不安な時代」(181×194)
「不安な時代」(130×194)
05年「宵」(50×18)
「不安な時代」(192×95)
「不安な時代」(130×162)
「時」(140×70)
06年「雨上がり I」(97×194)
「雨上がり II」(97×194)
07年「雨上がり III」(97×194)
3月12日(月)-17日(土)10:00-18:00
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■05年の個展
■03年の個展(画像なし)
記念すべき個展なので、画像もふだんより大きめにしてアップしてみました。
インドの、無人の広壮な建物をモティーフに、破壊と再生の思いを込めて描きつがれた大作群は、圧巻でした。
冒頭の画像は、近作の「雨上がり」3点のうちの1点。
佐藤さんの絵の特徴だった、“建物の崩落の一瞬”の描写は影をひそめ、巨大な石塊が空中に浮遊して、見る者に圧迫感をあたえます。
下方に描かれた風景はひろがりを増し、「I」では集落が、「II」では川が、「III」では乾燥した大地が、それぞれ題材になっています。
「いつ落ちてくるかわからない不安のようなもの」
と佐藤さんは、絵の意図を話しておられました。
つぎの作品は「予感」。
佐藤さんの今回の出品作の、ひとつの典型を示しています。おなじタイプの絵が、何枚もありました。
ちょっと画像がゆがんでいて、申し訳ありません。
この絵でわかるとおり、建物の崩落は、ダイナミックであると同時に、音もなく起きているという印象があります。
あるいは、崩落中の一瞬間で、時が静止してしまったかのような。
動と静という相矛盾したものが、何の違和感もなく同居しているのが、佐藤さんの絵の真骨頂ではないかと思います。
わたしたちの住んでいるところとは遠く離れた世界の出来事でありながら、しかし現代人の心理を反映しているようでもあります。
つぎは、一転して静けさの世界です。
キャンバス3枚をつなげた大作「遠い記憶」。95年の作品です。
手前に大きな池が配されています。これだけ広い水面が登場するのは、佐藤さんの絵ではめずらしい。
中央の紙片と左右の紙飛行機は、いずれも楽譜です。中央のを見ると
SUITE III violincello
J.S.Bach
と表題がありました。あの有名な、バッハの「無伴奏チェロ組曲 ハ長調」です。
画像では見づらいかもしれませんが、画面左上から中央にかけ、空に飛行機雲のようなものがかかっています。
佐藤さんは東京で何度も個展を開いていますが、ちょうどイラク戦争のころに開催したことがあり、たまたま入ってきた西洋人の若い女性が、「Iraq?」「missile?」と聞いてきて、早口の英語で感想をまくしたてたことがあったそうです。
「こっちは、英語わかんないし、困ったよ。ノー、ノーって言った」
最後に画像を紹介するのは、1984年作の「悠久の大地」です。
これ、今回の出品作の中で、筆者のいちばんの好みなんです。
破壊・崩落は、佐藤さんの絵の重要な要素ですが、一方で、この絵のような、おだやかな祈りの世界も、欠くことはできません。
筆者はこの絵を見ると、言いようのない安らぎをおぼえます。
まるで、魂が還ってゆく場所のようです。
佐藤さんは20年ほど前、通り魔に襲われて頭にけがを負ったことがあるそうです。今回展示したような作品世界は、その入院中にひらめいたとか。それ以前は、裸婦を手かげていた時代もあったといいますが、筆者は未見です。
佐藤さんの世界をたっぷり堪能できた個展でした。
紹介がおくれたことをおわびいたします。
出品作は次のとおり。
83年「見張り台」(41×32)
「予感」(10F)
「予感」(46×53)
「記憶」(80×160 三角形)
「旅愁」(91×91)
84年「秋の詩」(117×91)
「記憶」(97×146)
「不安な時代」(73×91)
「暮れゆく時」(73×91)
85年「真昼の幻想」(112×146)
「錯覚と停止した瞬間との出会い」(91×117)
86年「春の予感」(97×146)
「予感」(112×146)
87年「予感」(117×117)
89年「予感」(80F)
91年「不安な時代」(162×162)
「明」(62×165)
93年「遠い記憶」(30×60)
「夜の秋」(91×91)
「停止した時間」(162×112)
94年「記憶」(165×165)
95年「遠い記憶」(162×380)
「時」(165×165)
98年「都市の記憶」(180×224)
99年「夕暮の寺院」(70×140)
01年「時」(13×6)
「不安な時代」(130×194)
02年「不安な時代」(181×194)
「不安な時代」(130×194)
05年「宵」(50×18)
「不安な時代」(192×95)
「不安な時代」(130×162)
「時」(140×70)
06年「雨上がり I」(97×194)
「雨上がり II」(97×194)
07年「雨上がり III」(97×194)
3月12日(月)-17日(土)10:00-18:00
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■05年の個展
■03年の個展(画像なし)
私は佐藤さんの画は大変好きで、本当に見ていると引き込まれそうな、画の世界に旅立ってしまいそうな感じがします。
でも、入ってみたら人はいないし、熱風吹く砂漠だったりして大変な世界かも知れません。
でも絵の中に入ってみたら、ちょっとタイヘン。誰もいませんからね。