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■第9回サッポロ未来展「Forum」 (3月20日まで)

2010年03月19日 22時43分00秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
(文中敬称略、長文です)

 道内在住と、道内出身で首都圏在住の若手(40歳以下)が、札幌時計台ギャラリー全7室を借り切って毎年3月にひらいているグループ展。ことしで9回目となる。

 この手の展覧会で総体的な印象をつづってもあまり意味がないのだが、今年は例年よりも出品作家の数がやや少なく、G室すべてを、鑑賞者参加型の企画「レイヤアート」にあてている。この数年は、2階に絵画、3階にインスタレーション系現代アートという配置が多かったが、今回は、後者が少なかったことも「余裕」の一因かもしれない。

 また、道外からの招待作家は、東北芸術工科大出身の棚澤寛と高松和樹の2人だけであったが、いずれも非常に興味深い絵画を出品している。
 スタート時からの常連だった水野智吉や村山之都が“卒業”する一方、1990年代生まれ、大学入学前の若手など、新顔も多く、世代交代は着実に進んでいるようである。


 棚澤寛の4点はいずれも、制服を着た女子高生やスーツ姿の男性が空中を泳いでいるという図柄。はるか眼下に、飛行機の中から見下ろしたような地上の風景が描かれている。どう見ても、スカイダイビングの途中のようではなく、タッチはごくリアルなのだが、超現実的な光景といえそうだ。
 「空と大地の狭間で」は、ひとりの女子高生と、カラフルな本9冊、0点のテストが空に舞っている。テストの解答用紙には、日本の将来を案ずるようなことばが書かれているのだが、すべてにバツ印がついている。ほんとに大事なことって何だろう? と考えさせられる。

(ちょっと話はそれるけど、0点のテストにこういうことを書くって、カッコイイな。自分はそこまでやる勇気はなかった。もちろん、100点のテストの裏側に書けばもっとカッコイイんだけどね)

 もうひとりの招待出品、高松和樹は、モノトーン。
 キャプションには「テント生地、野外用顔料溶剤ジグレー」とあったが、ぱっと見た分には、画材の珍しさはわからない。
 漆黒の闇に浮かぶ白い都市に、デフォルメされた白い裸婦が立っているという、強い印象を与える図柄だ。
 「味付け」は、ビキニ姿の裸婦がマヨネーズのようなものをビルの上からかけている。都市は、アクリル板でこしらえたように、現実感を欠いている。

 おなじ部屋には、デフォルメされた男女が、白いビル街を背景にふわふわと舞う波田浩司の「羽の舞う日」も展示されており、期せずして、都市の風景を背景にした絵画作品が3人ぶん、並ぶことになった(鈴木の作品は、地上が緑あふれる絵もあるのだが)。
 それらの都市は、高度成長期のような、ある種の活力に満ちたものではとうていなく、かといってロマン派的な「自然」に対立するものでもない。
 強いて言えば、若い画家にとってはすでに、「自然」よりも身近な、いわば所与の風景であり、そのぶん、現実的な奥行きや実在感覚に乏しい、薄っぺらな外界ということができるのではないだろうか。


 B室には、洋画と日本画が展示されている。
 谷地元麗子の作品からは猫が姿を消して久しく、裸婦がふたりくつろいでいる。
 道展で注目していた前田健浩の作が見られたのはうれしい。彼の取り組みは、おけいこごとの水墨画ではない、現代のモノクローム表現はどうやったら可能になるかという、試行錯誤だと筆者には感じられるからだ。

 C室では北田依知子の大作を見て考え込んでしまった。
 半裸、もしくは、それに近い女性5人がリアルに描かれ、迫力は十分である。背景はほとんど白一色だ。
 しかし、モティーフだけを取り出して言えば、これはキャバクラの看板となんら変わらないはずだ。
 にもかかわらず、これは存在感ある女性群像になっていて、あきらかにキャバクラ看板ではない。それは一目瞭然りょうぜんである。 
 筆者にはキャバクラ看板をおとしめる意図はまったくないのだが、キャバクラ看板と絵画を分かつものはいったいなんだろう? 考えても結論が出ないのであった。

 福島崇広「bird」は、木の枝に、屋根の付いた鳥の餌台を取り付けた様子を撮った写真をキャンバスに出力したもの96枚、その写真をつなげたアニメーション、餌台の実物の、あわせて三つの部分からなっている。
 上映されているアニメーション、といっても、プリントの濃淡などが変わるだけで、絵柄はほとんど変化しない。時が流れていかないのである。しかし、小鳥のさえずりは聞こえてくる。
 また、餌台には鳥のふんがついている。
 画像からは見えないのに、鳥が来たことは音声や餌台からは明らかなのだ。
 時間とは何かという問題意識が底を貫いている作品なのだと思う。
 
 風間真悟「Bonze」は、武蔵野美大大学院を修了後、曹洞宗の永平寺で修行中の作者が描いた人物デッサン70点。
 第2回からサッポロ美術展に皆勤で、プロジェクト的なアートに意欲を示していた人が、なんで仏門に入ったのかはよくわからないのだが、しかし、これも人生なんだよなと、妙に納得したりする。

 こうして振り返ってみると、写実的な人物画がいつになく多い。
 しかし、筆者としてはそれらの作品にはそれほど興味が持てない。なんだか、その画家に見えている世界がちょっと狭すぎるような気がするんだけど、偏見かしらん。
 一部の作品にしかふれられず、すいません。


 出品作は次の通り。
波田浩司 羽の舞う日(同題2点)
佐藤仁敬 Paranoid(同題2点)
棚澤寛  飛職俯瞰図 行方不明 振乱女学生鳥瞰図 空と大地の狭間で
高松和樹 慎ましく密やかなる抵抗 今週のエコロジスト 味付け
宮地明人 paradox(同題2点)

佐々木ゆか hesitation(同題2点)
菊谷達史 マーダーケース Sweet greed 蝶インフルエンザ 黒いお花畑
谷地元麗子 いつか見た夢
久山春美 滾々
前田健浩 神宮イタヤカエデ 自然

中川治  アクアリスト
三上曜  自分 自分(2人) 母と自分 父と自分
福島崇広 bird
佐藤舞  仰ぐ
北田依知子 沈黙 (無題が3点)

竹居田圭子 人の居場所
河野健  こどもの時間
佐藤志帆 浮遊する記憶

鈴木秀尚 コンプレックス アイランド GATE
カトウタツヤ 無題(2点)
河崎辰成 のぞき窓
渡辺元佳 dreamer ふわふわふわふわする GURUGURU
稻實愛子 ug angu

風間真悟 Bonze


2010年3月15日(月)-20日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A

http://www.sapporomiraiten.com/
http://www.sapporomiraiten.com/blog/

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