![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/ea/f4551cf8a5bed3113813c6200ea2ace0.jpg)
(承前)
非常に間が開いてしまったが、3月29日の苫小牧行きの続き。
苫小牧市美術博物館は毎年「中庭展示」と称して、廊下に囲まれた四角い空間にインスタレーションを設置している。
数メートル四方の、あまり広くない空間で、現代アートの設置場所として決して恵まれているとは言いがたいが、それを逆手にとってさまざまな試みが行われてきた。
今回は、札幌の坂東史樹さんが登場。
しかし、設営数日にして、台風のため作品が損壊し、中庭に面した廊下の一部を区切ってあらためて設置したのが、筆者が見たインスタレーションだったらしい。
また、同館のサイトによれば、当初は11月24日までの予定だったが、好評につき2020年3月29日まで会期が延長されたとのこと。
ひとことでいうと、筆者がこれまで20年余りの間に見てきた坂東作品のうち、規模が最大なのは誰が見ても間違いない。
そして、個人的には、坂東さんの展示でいちばん感動した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/55/52f0ce49b9271d58931ff91e5c210ad5.jpg)
坂東さんは、2013~14年に札幌芸術の森美術館が企画・開催した「北の創造者たち展 虚実皮膜」での発表あたりから、模型のような作風の作品が多い。
このときは、山小屋のようなモティーフだったが、この数年は、都市を鳥瞰図のように見下ろした大がかりな(というか、非常に精緻に都市を再現した)作品も制作している。JR札幌駅構内の JR TOWER アートボックス に5月末まで展示中の「昼と夜の曖昧な境界線」もそのひとつだ。
同じ美術博物館で開催中だった「企画展「大正・昭和の鳥瞰図と空から見た昭和30年代の苫小牧」」ともテーマ的に共通する、相性の良い展示だったともいえるだろう。
ただ、今回の苫小牧の作品は、これまでと決定的に異なる点がある。
従来の坂東さんの模型作品は、ガラスやアクリル越しに鑑賞する仕組みになっていることが多かった。
必然的に、見る側の位置は定まってくるから、坂東さんは遠近法・透視図法を逆手に取って、手前をわざと大きめに、遠方の建物などは小さめに作っていることがよくあった。
いわば、パノラマ性を誇張していたのだ。
今回の作品は、見る人が模型のまわりを自由に巡ることができる。
立ったりしゃがんだりすれば、視点の高さも自在に調整可能だ。
立って見下ろせば、まるで夜間飛行の航空機の窓から眺める夜景のようだし、しゃがんで見れば、親しみを感じさせるミニチュアのようで、まるでこびとになってジオラマの中に入っていけるかのようだ。
つまり、今回の作品は、透視図法にのっとって見えるようにわざと手前の建物を大きめにつくるといった細工はせず、どこもおなじような縮尺で制作しているのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/1d/af5b11bb378c3379d7e7de04860c2418.jpg)
もちろん、これは単なる模型ではなくアート作品なので、実際の縮尺そのままではないだろう。
モティーフとなっている苫小牧港は巨大である。
港湾は一般的に入り江や河口などに造られるものだが、苫小牧港の西港は平地を大きく掘り進んで造成された。おそらく港の幅と、周囲の倉庫や石油タンクなどの大きさの比は、現実とは異なると推測される。
また、今回にかぎったことではないだろうが、看板などまで現実をそっくり引き写ししているわけではない。
そういったものを捨象し、整理して造形することで、全体をすっきりしたものに見せていることは言うまでもない。
全体的な形状は誰がどうみても苫小牧港なのに、ある種の普遍的なたたずまいを感じさせるのは、そのあたりの工夫によるであろう。
同館のサイトには次の文章が載っている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/09/b436693db5fd50303a64c0387b84a515.jpg)
理屈は抜きにしても、ほんとうに美しいなあと思う。
夜間飛行で見る夜景が美しいのは、わたしたちの深層心理につながっているからだったのだろうか。
会場でうっとりしていると、奥まったところに設置されているせいか、こちらに足を運ばずに帰っていく人たちが時々いて、もったいないなあと感じるのだった。
2019年10月5日(土)~20年3月29日(日)午前9時半~午後5時、月曜休み(祝日は開館し翌火曜休み)
※新型コロナウイルスの影響で途中休館した時期あり
苫小牧市美術博物館(末広町3)
関連記事へのリンク
■記憶の循環 (2011)
■FIX MIX MAX! 現代アートのフロントライン (2006年)
■絵画の場合2005
■Northern Elements (2002年)
■“The Reassurance Found in Everyday Life”/「安堵感」(2002年)
非常に間が開いてしまったが、3月29日の苫小牧行きの続き。
苫小牧市美術博物館は毎年「中庭展示」と称して、廊下に囲まれた四角い空間にインスタレーションを設置している。
数メートル四方の、あまり広くない空間で、現代アートの設置場所として決して恵まれているとは言いがたいが、それを逆手にとってさまざまな試みが行われてきた。
今回は、札幌の坂東史樹さんが登場。
しかし、設営数日にして、台風のため作品が損壊し、中庭に面した廊下の一部を区切ってあらためて設置したのが、筆者が見たインスタレーションだったらしい。
また、同館のサイトによれば、当初は11月24日までの予定だったが、好評につき2020年3月29日まで会期が延長されたとのこと。
ひとことでいうと、筆者がこれまで20年余りの間に見てきた坂東作品のうち、規模が最大なのは誰が見ても間違いない。
そして、個人的には、坂東さんの展示でいちばん感動した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/55/52f0ce49b9271d58931ff91e5c210ad5.jpg)
坂東さんは、2013~14年に札幌芸術の森美術館が企画・開催した「北の創造者たち展 虚実皮膜」での発表あたりから、模型のような作風の作品が多い。
このときは、山小屋のようなモティーフだったが、この数年は、都市を鳥瞰図のように見下ろした大がかりな(というか、非常に精緻に都市を再現した)作品も制作している。JR札幌駅構内の JR TOWER アートボックス に5月末まで展示中の「昼と夜の曖昧な境界線」もそのひとつだ。
同じ美術博物館で開催中だった「企画展「大正・昭和の鳥瞰図と空から見た昭和30年代の苫小牧」」ともテーマ的に共通する、相性の良い展示だったともいえるだろう。
ただ、今回の苫小牧の作品は、これまでと決定的に異なる点がある。
従来の坂東さんの模型作品は、ガラスやアクリル越しに鑑賞する仕組みになっていることが多かった。
必然的に、見る側の位置は定まってくるから、坂東さんは遠近法・透視図法を逆手に取って、手前をわざと大きめに、遠方の建物などは小さめに作っていることがよくあった。
いわば、パノラマ性を誇張していたのだ。
今回の作品は、見る人が模型のまわりを自由に巡ることができる。
立ったりしゃがんだりすれば、視点の高さも自在に調整可能だ。
立って見下ろせば、まるで夜間飛行の航空機の窓から眺める夜景のようだし、しゃがんで見れば、親しみを感じさせるミニチュアのようで、まるでこびとになってジオラマの中に入っていけるかのようだ。
つまり、今回の作品は、透視図法にのっとって見えるようにわざと手前の建物を大きめにつくるといった細工はせず、どこもおなじような縮尺で制作しているのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/1d/af5b11bb378c3379d7e7de04860c2418.jpg)
もちろん、これは単なる模型ではなくアート作品なので、実際の縮尺そのままではないだろう。
モティーフとなっている苫小牧港は巨大である。
港湾は一般的に入り江や河口などに造られるものだが、苫小牧港の西港は平地を大きく掘り進んで造成された。おそらく港の幅と、周囲の倉庫や石油タンクなどの大きさの比は、現実とは異なると推測される。
また、今回にかぎったことではないだろうが、看板などまで現実をそっくり引き写ししているわけではない。
そういったものを捨象し、整理して造形することで、全体をすっきりしたものに見せていることは言うまでもない。
全体的な形状は誰がどうみても苫小牧港なのに、ある種の普遍的なたたずまいを感じさせるのは、そのあたりの工夫によるであろう。
同館のサイトには次の文章が載っている。
本展参加にあたり坂東が同港を題材に選んだ背景には、人工の掘り込み港湾という特色ある地形やその周辺の工場やコンビナートなどの構造物、そして海水の存在があったといいます。自身の創作活動において、睡眠時にみる夢や、その重要性を提唱するユングの心理学を参照とする坂東は、「地表」を心の表層にある「意識」として位置づける一方で、その上下に広がる「空」ないし「海洋」を心の深層に潜在している本質的側面、すなわち「無意識」として暗示しています。この機会に坂東の緻密な手仕事による造形とそれが織りなす夢幻的な情景をご覧ください。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/09/b436693db5fd50303a64c0387b84a515.jpg)
理屈は抜きにしても、ほんとうに美しいなあと思う。
夜間飛行で見る夜景が美しいのは、わたしたちの深層心理につながっているからだったのだろうか。
会場でうっとりしていると、奥まったところに設置されているせいか、こちらに足を運ばずに帰っていく人たちが時々いて、もったいないなあと感じるのだった。
2019年10月5日(土)~20年3月29日(日)午前9時半~午後5時、月曜休み(祝日は開館し翌火曜休み)
※新型コロナウイルスの影響で途中休館した時期あり
苫小牧市美術博物館(末広町3)
関連記事へのリンク
■記憶の循環 (2011)
■FIX MIX MAX! 現代アートのフロントライン (2006年)
■絵画の場合2005
■Northern Elements (2002年)
■“The Reassurance Found in Everyday Life”/「安堵感」(2002年)
(この項続く)