北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

井田勝己「月に向かって進め」 晩秋の旭川・その8 旭川の野外彫刻(65)

2021年12月16日 06時30分04秒 | 街角と道端のアート
(承前)

 上川合同庁舎から国道39号の方に戻り、永山市民交流センターのエントランスロビーにある作品。
 例によって、厳密には「野外」彫刻ではありませんが、旭川市内に設置されている作品の中でも、非常に見応えのある一つではないかと個人的に思っています。

 
 石片を丸くならべた内側に土が敷かれ、その上に大きな岩石が、さらにその上に船のような形をした彫刻がのっかっています。

 右側の方が高く傾いているので、まるで遠い空間へ向けて旅立つ瞬間のようにも思えてきます。

 巨大な宇宙船? というと「超時空要塞マクロス」や「ガールズ & パンツァー」を想起する人もいるかもしれませんが、もっと古代文明的な感じです。アニメ的な作品ではありません。



 近づいてみると、彫刻の上には、遺跡のようなかたちが刻まれています。
 まるで太古の宇宙船のようでもあり、ほかの惑星に残された宇宙人や古代人類の痕跡のようでもあります。

 どこかSF的な意匠でありながら、おおらかさと懐かしさも感じさせる、独特のたたずまいがあるのです。
 自然の石のまま残した部分と、研磨して表面を磨き上げた部分との対比が絶妙です。


 

 勝手な印象を書き散らしてきましたが、ともあれ、これほど多くの空想に、見る人を誘う作品も珍しいのではないでしょうか。

 この作品は2001年の第31回中原悌二郎賞優秀賞を受賞しました。
 前年に東京の現代彫刻センターで開いた個展に出品されたもの。
 玄武岩と花崗岩で、180×300×150センチの大きさです。


 井田さんは1956年、鳥取県生まれ。
 81年に東京造形大の美術彫刻専攻を卒業し、その後兵庫教育大学院の修士課程に学んでいます。
 95年には第16回現代日本彫刻展で、大賞、下関市立美術館賞を受賞。

 その後、2003年には文化庁在外研修員としてハーバード大客員研究員になります。
 帰国後の05年、東京造形大の美術彫刻専攻助教授に就任しました。


 選考経過には、次のようにあります。

 井田氏の作品にも情景を思わせるところがある。受賞作は大きな自然の玉石の上に、その肌に合わせるような大きなタッチで、三日月形に削られた石がバランスをとるように乗っかっている。その上面には、古代アクロポリスの遺跡を思わせる形が彫り込まれ、彩られて、幻想的な味わいが刻印された船となって、いざ進まんとする気配が新鮮で、これからの展開を期待させるものがある。


 引用の最初に
「作品にも」
となっているのは、このときの中原悌二郎賞が山本正道だったためです。
 よく知られているとおり、山本正道さんも風景や情景を彫刻に取り込んだ先駆者ともいうべき作家です。もちろん、井田さんとは作風は異なりますが。


 受賞のことばも載せておきます。

 原題制作中の作品が、思うように行かず苛々している時に突然の電話、「誰だ、こんな時間に」と、電話を取ると受賞の知らせ…。
 驚きと、喜びと、恐怖感がない混ぜに成り、頭の中が真っ白になりました。呆然と立ち尽くすのみでした。

(中略)
(作品について)
 明日が不安に感じる時、失ってしまった記憶が、優しく僕を包んでくれる。
 時間には計測可能なものと、そうでないものが有ると感じます。人には個々の中に記憶といった計測できない「内なる時間」といったものが有るような気がします。想い出や、記憶といったものは、一般的に時間とは考えられていないようですが、私はそう思いません。彫刻を通して「内なる時間」を、表現できたらと考えます。


 
 
 「旭川野外彫刻たんさくマップ」には記載はありませんし、旭川に来てここまで足をのばす人は少ないと思いますが、見て良かったと心から思える作品でした。

 ごくごく個人的な思いになってしまいますが、スピッツのヒット曲「ロビンソン」の
「♪ルララ、宇宙の風になる」
という一節を思わず口ずさんでしまうような、そんな空間と時間の広がりを感じさせる彫刻だと思います。






最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。