(承前)
新道展の紹介も「その3」で、いちおう最後。
他の団体公募展と比べても、大幅にバランスを欠いた分量になってしまっているが、地震で会期打ち切りの悲劇に遭っていることをかんがみ、読者諸賢にあってはご諒解を願いたい。
さて、冒頭と2枚目の画像は、ユニット「故郷 II」による「マネキン回転箱ーモノとしての私、ヒトとしての貴方」。
佳作賞を受賞。
直方体の4面に女性の全身像がほぼ等身大で描かれているが、頭部/胴体/下半身の三つの部分がぐるぐる回るようになっており、着せ替え人形のような遊びが簡単にできるというもの。
「遊び心」といってしまえばそれまでだが、女性のみが描かれているということに、女性がまなざされる存在であり、操作される側であるという現代社会の構造を見ることも可能だと思う。また、労働現場での性差とアイデンティティーの問題など、このユニークな作品をきっかけに考えられることはたくさんあろう。
※この段落の「故郷」のルビが「ふるさと」となっていたのを「こきょう」と訂正しました。お詫びいたします。
左は櫻井マチ子「La.La.Qoo-」
中央が山本洋子「色が好きな仲間達」
右が永井美智子「REVOLUTION」
櫻井さんの絵はあいかわらず不思議。曲線を生かした、計算されつくした構図と、クリアな画面。
他の誰にも似ていない。
一方で永井さんの絵は、以前にくらべると、色彩はやや濁っており、そこがむしろ魅力といえるかもしれない。
左は南條仁子「朱の情景」。
切り立った崖のある街並み。白く巨大な満月。
イエローオーカーの空。
荒削りではあるが、だれも見たことのない風景を創出しようとしているのは評価したい。
そのとなりは平川玲子「Oceanー2018」
続いて、大畑和子「2人の私」
フクロウは大畑さんのトレードマークだ。
大塚富雄「界」。
大塚さんは、初期の神田日勝にも通じるような粘り強いリアリズムで焼却炉などを描いてきたが、今回の作品にびっくり。
炉の間に、タッチの全く異なる裸の人物が現れてすわっている絵を出品しているのだ。大きさもリアルではないし、陰影を欠くので、不意打ちにあったように驚いた。この人たちは、誰なんだろうか。
左、今野洋一「枯木」
中央、澤口幸子「遠いまちへ」
右、長尾美紀「観」
3人とも一般出品で、澤口さんと長尾さんは会友推挙。
澤口さんは、遠景だけでなく近景にも街景を配しているのが効果的。
右下の建物から、2人の足下へと、地図記号の鉄道のような線が伸びているのも、画面全体にゆとりのようなものを与えていると思う。
左は山下絵里奈「Identity あふれる個性」。
新進イラストレーターとして活躍中の人。
最後の画像、右手前は山口大「冬の山景」。遺作。
山口さんは1925年(大正14年)、釧路生まれ。
48年から道展に出品し、50年に野田賞。
その後、新道展に転じ、62年に会員に推挙されている。現会員のなかでは、60年推挙の今荘義男さんに次いで古かった。
きわめてオーソドックスな風景画の描き手で、堅実な構図と落ち着いたタッチは、いつ見ても安心できるものだった。
左奥は鴇田由紀子「静かな時間 III」。
鴇田さんの絵では以前、舟はよく空を飛んでいたものだが、この絵ではすっかり地面に落ちて、かわりに都市のまぼろしが宙に浮かんでいる。全体を覆う枯れ草色は鴇田さんらしい。
最後に少しだけ全体的なことに触れる。
水彩画が増えた。ざっと数えて40点ほどもある。
ただ、1990年代の出品者が、シュルレアリスム的なアプローチで現実を変容させた画面づくりに苦心していたことを思うと、いまは大半がふつうの風景画で、これといった個性や、是が非でも伝えたいことなどがこちらに伝わってこないうらみがあるのが、少し残念だ。
新道展は、一般的な団体公募展にはそぐわないような作品でも受け入れてくれる柔軟さをまだ持っていると思うので、型破りな作品の出現を期待したい。
2018年8月29日(水)~9月5日(水)=当初予定は9日(日)まで
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
□新道展 shindoten.jp/
過去記事へのリンク
■第58回新道展 (2013)
■第54回新道展 ■続き
■第53回 ■続き
■07年
■06年
■50周年記念展 ■50周年記念展・つづき(05年)
■03年
■02年
■01年
□ http://kokyo2.jimdo.com/
■永桶麻理佳と故郷II展 (2016)
■バックボックス展 (2018年4月)
■労働/パラダイス 故郷II (2014)
■櫻井マチ子展 (2017)
■櫻井マチ子展 (2016)
■13→14展 (2013)
■櫻井マチ子展 (2013)
■櫻井マチ子展 (2010)
■櫻井マチ子個展(2008年)
■櫻井マチ子展(2007年)
■スネークアート展(2007年、画像なし)
■櫻井マチ子展(2007年)
櫻井マチ子展(2006年)
櫻井マチ子「妄想空間」絵画展(2004年)
櫻井マチ子「100枚展」(2003年、画像なし)
櫻井マチ子個展(2002年)
櫻井マチ子個展「Pretty Eros」(2002年)
櫻井マチ子個展(2001年)
山岸誠二と櫻井マチ子の場合(2001年、画像なし)
■永井美智子個展 (2016)
■Color's 5 色彩からの絵画性-女性5人展 (2013)=画像なし
【告知】永井美智子個展 (2011)
■第7回主体美術北海道グループ展 (2009)=画像なし
■永井美智子個展(2008年)
■第13回さいとうギャラリー企画 夏まつり「風」パートII (2007)=画像なし
■永井美智子個展(2006年)
■新道展 50周年記念展 (2005)=画像なし
■祭り・FEST展パートⅡ (2003)=画像なし
■永井美智子個展(2002年)
■大畑和子展(2009)
■大畑和子個展 (2002)
新道展の紹介も「その3」で、いちおう最後。
他の団体公募展と比べても、大幅にバランスを欠いた分量になってしまっているが、地震で会期打ち切りの悲劇に遭っていることをかんがみ、読者諸賢にあってはご諒解を願いたい。
さて、冒頭と2枚目の画像は、ユニット「故郷 II」による「マネキン回転箱ーモノとしての私、ヒトとしての貴方」。
佳作賞を受賞。
直方体の4面に女性の全身像がほぼ等身大で描かれているが、頭部/胴体/下半身の三つの部分がぐるぐる回るようになっており、着せ替え人形のような遊びが簡単にできるというもの。
「遊び心」といってしまえばそれまでだが、女性のみが描かれているということに、女性がまなざされる存在であり、操作される側であるという現代社会の構造を見ることも可能だと思う。また、労働現場での性差とアイデンティティーの問題など、このユニークな作品をきっかけに考えられることはたくさんあろう。
※この段落の「故郷」のルビが「ふるさと」となっていたのを「こきょう」と訂正しました。お詫びいたします。
左は櫻井マチ子「La.La.Qoo-」
中央が山本洋子「色が好きな仲間達」
右が永井美智子「REVOLUTION」
櫻井さんの絵はあいかわらず不思議。曲線を生かした、計算されつくした構図と、クリアな画面。
他の誰にも似ていない。
一方で永井さんの絵は、以前にくらべると、色彩はやや濁っており、そこがむしろ魅力といえるかもしれない。
左は南條仁子「朱の情景」。
切り立った崖のある街並み。白く巨大な満月。
イエローオーカーの空。
荒削りではあるが、だれも見たことのない風景を創出しようとしているのは評価したい。
そのとなりは平川玲子「Oceanー2018」
続いて、大畑和子「2人の私」
フクロウは大畑さんのトレードマークだ。
大塚富雄「界」。
大塚さんは、初期の神田日勝にも通じるような粘り強いリアリズムで焼却炉などを描いてきたが、今回の作品にびっくり。
炉の間に、タッチの全く異なる裸の人物が現れてすわっている絵を出品しているのだ。大きさもリアルではないし、陰影を欠くので、不意打ちにあったように驚いた。この人たちは、誰なんだろうか。
左、今野洋一「枯木」
中央、澤口幸子「遠いまちへ」
右、長尾美紀「観」
3人とも一般出品で、澤口さんと長尾さんは会友推挙。
澤口さんは、遠景だけでなく近景にも街景を配しているのが効果的。
右下の建物から、2人の足下へと、地図記号の鉄道のような線が伸びているのも、画面全体にゆとりのようなものを与えていると思う。
左は山下絵里奈「Identity あふれる個性」。
新進イラストレーターとして活躍中の人。
最後の画像、右手前は山口大「冬の山景」。遺作。
山口さんは1925年(大正14年)、釧路生まれ。
48年から道展に出品し、50年に野田賞。
その後、新道展に転じ、62年に会員に推挙されている。現会員のなかでは、60年推挙の今荘義男さんに次いで古かった。
きわめてオーソドックスな風景画の描き手で、堅実な構図と落ち着いたタッチは、いつ見ても安心できるものだった。
左奥は鴇田由紀子「静かな時間 III」。
鴇田さんの絵では以前、舟はよく空を飛んでいたものだが、この絵ではすっかり地面に落ちて、かわりに都市のまぼろしが宙に浮かんでいる。全体を覆う枯れ草色は鴇田さんらしい。
最後に少しだけ全体的なことに触れる。
水彩画が増えた。ざっと数えて40点ほどもある。
ただ、1990年代の出品者が、シュルレアリスム的なアプローチで現実を変容させた画面づくりに苦心していたことを思うと、いまは大半がふつうの風景画で、これといった個性や、是が非でも伝えたいことなどがこちらに伝わってこないうらみがあるのが、少し残念だ。
新道展は、一般的な団体公募展にはそぐわないような作品でも受け入れてくれる柔軟さをまだ持っていると思うので、型破りな作品の出現を期待したい。
2018年8月29日(水)~9月5日(水)=当初予定は9日(日)まで
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
□新道展 shindoten.jp/
過去記事へのリンク
■第58回新道展 (2013)
■第54回新道展 ■続き
■第53回 ■続き
■07年
■06年
■50周年記念展 ■50周年記念展・つづき(05年)
■03年
■02年
■01年
□ http://kokyo2.jimdo.com/
■永桶麻理佳と故郷II展 (2016)
■バックボックス展 (2018年4月)
■労働/パラダイス 故郷II (2014)
■櫻井マチ子展 (2017)
■櫻井マチ子展 (2016)
■13→14展 (2013)
■櫻井マチ子展 (2013)
■櫻井マチ子展 (2010)
■櫻井マチ子個展(2008年)
■櫻井マチ子展(2007年)
■スネークアート展(2007年、画像なし)
■櫻井マチ子展(2007年)
櫻井マチ子展(2006年)
櫻井マチ子「妄想空間」絵画展(2004年)
櫻井マチ子「100枚展」(2003年、画像なし)
櫻井マチ子個展(2002年)
櫻井マチ子個展「Pretty Eros」(2002年)
櫻井マチ子個展(2001年)
山岸誠二と櫻井マチ子の場合(2001年、画像なし)
■永井美智子個展 (2016)
■Color's 5 色彩からの絵画性-女性5人展 (2013)=画像なし
【告知】永井美智子個展 (2011)
■第7回主体美術北海道グループ展 (2009)=画像なし
■永井美智子個展(2008年)
■第13回さいとうギャラリー企画 夏まつり「風」パートII (2007)=画像なし
■永井美智子個展(2006年)
■新道展 50周年記念展 (2005)=画像なし
■祭り・FEST展パートⅡ (2003)=画像なし
■永井美智子個展(2002年)
■大畑和子展(2009)
■大畑和子個展 (2002)
(この項終わり)
またユニークな作品を拝見するのを楽しみにしています。
今回の作品は感想をいただいた方々によって思うことが違っていたのが特徴でした。
2枚も写真を使って頂いてありがとうございました。