詳細な分析は、展覧会図録(2900円)や「美術手帖」2008年9月号をじっくり読み込んでから行うことにして、ざっと見た感想を記しておきます。
ついつい長文になってしまいました。
「レイアウト」というのは、映画の設計図のようなもの。
「絵コンテ」が、脚本に絵をつけた「映画の基本」だとしたら、それよりもやや詳しいデッサン的な「指令図」みたいなもの。
音声やせりふに関する記述はなく、かわりに、カメラの動き(パンなど)や登場人物の動き、色の表現などの指定が書き込まれることが多い。
ほとんど鉛筆と色鉛筆で描かれている。
背景を描く人やアニメーターへの指示のためのものだから、絵の細かさは、紙によって異なる。
宮崎駿・高畑勲コンビによるアニメーションで初めてレイアウトがシステム的に用いられたのは、1974年から放送された「アルプスの少女ハイジ」。
宮崎駿は「ハイジ」の30分シリーズのレイアウトをすべてひとりでかいた。常識的にはありえない(テレビアニメは、数人で演出・脚本をまわすのが普通)。
この展覧会は、その「ハイジ」と、「母をたずねて三千里」「未来少年コナン」「赤毛のアン」「ルパン三世」(これは第2期テレビシリーズの1話)「じゃりン子チエ」までを、「レイアウトシステムのはじまり」というくくりで、会場の最後の部分にまわし、その手前に「風の谷のナウシカ」「天球の城ラピュタ」「おもひでぽろぽろ」「もののけ姫」「ゲド戦記」といったジブリ作品のレイアウトを展示している(厳密には「ナウシカ」は「トップクラフト」制作)。
また、「ギブリーズ episode2」「On Your Mark」といった、あまり語られないような地味めな作品もとりあげられている。
いちばん最後は、来月公開の新作「借りぐらしのアリエッティ」のレイアウト。これは、2008年の東京都現代美術館など、これまでの巡回先ではもちろんなかったものなので、札幌の人は2年間待ったかいがあるというものだ。
もちろん、もともと保管するために描いたものではないから、残っている量には差があり、「魔女の宅急便」などは数えるほどしか展示されていない。また、あの初期の名作「パンダコパンダ」シリーズなどは、このシステムの前であるから当然展示されてないし、「ルパン三世 カリオストロの城」もない。
ダントツに多いのが「千と千尋の神隠し」。天井までいっぱいに展示されている部屋があり、上の方の細部を見るのはとうてい不可能だ。
しかし、会場構成にメリハリをつけるという意味ではこれはしかたない。というか、今回は、展示会場内には、理解を助けるための少数のパネルと小型液晶モニターがあるくらいで、これくらい地味な会場はむしろ珍しいのではないか。
(トトロの上に乗って写真を撮るコーナーとか、体験コーナーのたぐいは、展示室外に置かれている)
だからといって、つまらない展覧会ではない。
むろん、見た映画のレイアウトはとても楽しめるが、見てない映画のそれにも興味がわいてきて、気がついたら1時間半や2時間はたってしまう。
鉛筆デッサンに色をさっと加えただけの、ほとんどおんなじような大きさの絵がならんでいるだけなのに、ですよ。
それは、やっぱり、あたりまえの理由づけになるけれど
絵が圧倒的にうまい
ためだとしか思えない。
あまり理屈っぽく分析してもしょうがないが、
・人物の表情の豊かさ(「ナウシカ」を見たことがなくても、この少女がなにかに感極まって泣く寸前ということがわかる1枚がある)
・俯瞰だったり、下から見上げたりといった角度の豊かさ
・空中を走るトロッコや恐るべき兵器、架空の生きものなどにみられる並外れた想像力
等々、とにかく圧倒されてしまうのだ。
こんなことを記すとまたさしさわりがあるかもしれないけれど、この水準の「絵」に出合うことって、日々ギャラリーをまわっていても、そうそうしょっちゅうあるわけではない。
もちろん、現代のタブローと、アニメの絵は、そもそも求められているものが違う。しかし、今回の展覧会を見てしまうと、ふだんギャラリー目にする絵が、いかに、たとえば、人間の生き生きとした表情だとか、動きといったものを軽んじているかが、あらためてわかり、ちょっとびっくりしてしまうのだ。
もっとも、すべてがタブロー的な完成を求められているわけではないので「映像さま、なんとかヨロシク」「つじつま合わせてください」のような走り書きを見ると、思わず口元がゆるんでしまう。
音声ガイドは柊瑠美(「千と千尋」主人公の声)によるもの。500円。これは、借りてないのでわかりません。
売店は、受付の反対側の部屋に設けられている。一昨年の「男鹿和雄展」のときに比べると、グッズ系が増え、コンテンツ系(ジブリ作品のDVDや宮崎・高畑の著作など)が少ないような印象。
なお、通常の売店は、ジブリとは関係なく、道内作家が「弁当」をテーマに作ったグッズや作品を販売する特別企画を開催中。こちらものぞいてみればおもしろいかも。
2010年6月26日(土)~8月29日(日)9:45am~5:30pm(入場~5:00pm)、金曜日および8月12~15日は9:45am~9:00pm(入場~8:30pm)、会期中無休
札幌芸術の森美術館(札幌市南区芸術の森2)
一般・大学生 1100(900)円、高校・中学生900(700)円、小学生 600(400)円
※( )内は、前売りおよび20人以上の団体料金
・野外美術館との共通券もあります
□STVの展覧会ホームページ http://www.stv.ne.jp/event/layout/index.html
・地下鉄南北線真駒内駅バスターミナルの「2番乗り場」から中央バスに乗り「芸術の森入り口」降車。(すべての便で行けます。片道280円)
・会期中、音楽イベントなどがある日は、車で行かない方がいいです。
(2番乗り場は、真駒内駅の改札口を出てすぐ左折し、数十メートル先です)
ついつい長文になってしまいました。
「レイアウト」というのは、映画の設計図のようなもの。
「絵コンテ」が、脚本に絵をつけた「映画の基本」だとしたら、それよりもやや詳しいデッサン的な「指令図」みたいなもの。
音声やせりふに関する記述はなく、かわりに、カメラの動き(パンなど)や登場人物の動き、色の表現などの指定が書き込まれることが多い。
ほとんど鉛筆と色鉛筆で描かれている。
背景を描く人やアニメーターへの指示のためのものだから、絵の細かさは、紙によって異なる。
宮崎駿・高畑勲コンビによるアニメーションで初めてレイアウトがシステム的に用いられたのは、1974年から放送された「アルプスの少女ハイジ」。
宮崎駿は「ハイジ」の30分シリーズのレイアウトをすべてひとりでかいた。常識的にはありえない(テレビアニメは、数人で演出・脚本をまわすのが普通)。
この展覧会は、その「ハイジ」と、「母をたずねて三千里」「未来少年コナン」「赤毛のアン」「ルパン三世」(これは第2期テレビシリーズの1話)「じゃりン子チエ」までを、「レイアウトシステムのはじまり」というくくりで、会場の最後の部分にまわし、その手前に「風の谷のナウシカ」「天球の城ラピュタ」「おもひでぽろぽろ」「もののけ姫」「ゲド戦記」といったジブリ作品のレイアウトを展示している(厳密には「ナウシカ」は「トップクラフト」制作)。
また、「ギブリーズ episode2」「On Your Mark」といった、あまり語られないような地味めな作品もとりあげられている。
いちばん最後は、来月公開の新作「借りぐらしのアリエッティ」のレイアウト。これは、2008年の東京都現代美術館など、これまでの巡回先ではもちろんなかったものなので、札幌の人は2年間待ったかいがあるというものだ。
もちろん、もともと保管するために描いたものではないから、残っている量には差があり、「魔女の宅急便」などは数えるほどしか展示されていない。また、あの初期の名作「パンダコパンダ」シリーズなどは、このシステムの前であるから当然展示されてないし、「ルパン三世 カリオストロの城」もない。
ダントツに多いのが「千と千尋の神隠し」。天井までいっぱいに展示されている部屋があり、上の方の細部を見るのはとうてい不可能だ。
しかし、会場構成にメリハリをつけるという意味ではこれはしかたない。というか、今回は、展示会場内には、理解を助けるための少数のパネルと小型液晶モニターがあるくらいで、これくらい地味な会場はむしろ珍しいのではないか。
(トトロの上に乗って写真を撮るコーナーとか、体験コーナーのたぐいは、展示室外に置かれている)
だからといって、つまらない展覧会ではない。
むろん、見た映画のレイアウトはとても楽しめるが、見てない映画のそれにも興味がわいてきて、気がついたら1時間半や2時間はたってしまう。
鉛筆デッサンに色をさっと加えただけの、ほとんどおんなじような大きさの絵がならんでいるだけなのに、ですよ。
それは、やっぱり、あたりまえの理由づけになるけれど
絵が圧倒的にうまい
ためだとしか思えない。
あまり理屈っぽく分析してもしょうがないが、
・人物の表情の豊かさ(「ナウシカ」を見たことがなくても、この少女がなにかに感極まって泣く寸前ということがわかる1枚がある)
・俯瞰だったり、下から見上げたりといった角度の豊かさ
・空中を走るトロッコや恐るべき兵器、架空の生きものなどにみられる並外れた想像力
等々、とにかく圧倒されてしまうのだ。
こんなことを記すとまたさしさわりがあるかもしれないけれど、この水準の「絵」に出合うことって、日々ギャラリーをまわっていても、そうそうしょっちゅうあるわけではない。
もちろん、現代のタブローと、アニメの絵は、そもそも求められているものが違う。しかし、今回の展覧会を見てしまうと、ふだんギャラリー目にする絵が、いかに、たとえば、人間の生き生きとした表情だとか、動きといったものを軽んじているかが、あらためてわかり、ちょっとびっくりしてしまうのだ。
もっとも、すべてがタブロー的な完成を求められているわけではないので「映像さま、なんとかヨロシク」「つじつま合わせてください」のような走り書きを見ると、思わず口元がゆるんでしまう。
音声ガイドは柊瑠美(「千と千尋」主人公の声)によるもの。500円。これは、借りてないのでわかりません。
売店は、受付の反対側の部屋に設けられている。一昨年の「男鹿和雄展」のときに比べると、グッズ系が増え、コンテンツ系(ジブリ作品のDVDや宮崎・高畑の著作など)が少ないような印象。
なお、通常の売店は、ジブリとは関係なく、道内作家が「弁当」をテーマに作ったグッズや作品を販売する特別企画を開催中。こちらものぞいてみればおもしろいかも。
2010年6月26日(土)~8月29日(日)9:45am~5:30pm(入場~5:00pm)、金曜日および8月12~15日は9:45am~9:00pm(入場~8:30pm)、会期中無休
札幌芸術の森美術館(札幌市南区芸術の森2)
一般・大学生 1100(900)円、高校・中学生900(700)円、小学生 600(400)円
※( )内は、前売りおよび20人以上の団体料金
・野外美術館との共通券もあります
□STVの展覧会ホームページ http://www.stv.ne.jp/event/layout/index.html
・地下鉄南北線真駒内駅バスターミナルの「2番乗り場」から中央バスに乗り「芸術の森入り口」降車。(すべての便で行けます。片道280円)
・会期中、音楽イベントなどがある日は、車で行かない方がいいです。
(2番乗り場は、真駒内駅の改札口を出てすぐ左折し、数十メートル先です)
9月7日~10月24日:札幌芸術の森美術館20周年記念展の「北方神獣」、本当に楽しみにしています。
なんか、最近、急に忙しくなって、あちこち観て歩いています。
こちらのブログもちょっと、開いたつもりが、興味が広がり、気がつけば1時間くらいは閲覧しています。
北海道も1ケ月間ほどの盛夏に入ります。しっかり食べて、お身体ご自愛くださいますよう。
玲なさんは、このブログを熟読していただいているようで、なんだか恐縮してしまいます。
過去のエントリで、これがおもしろかったとか、ここが間違ってるとか、もしあれば、教えてくださいね。