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■チャリティ展 夕張市美術館コレクション~炭都・夕張の美術遺産 (2016年10月8~30日、札幌)

2016年11月02日 21時21分18秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 夕張市美術館の建物が雪の重みで壊れたニュースは記憶に新しい。
 美術館は1979年に開館。道内でも古い館だったが、市の財政破綻を受け、民間に運営を委託した直後の出来事だった。美術館は歴史に幕を閉じたが、幸い所蔵品は無事で、最近では後志管内ニセコ町で展覧会が開かれるなど各地で活用され始めている。
 札幌では2007年、道新ぎゃらりーのオープン記念として、夕張市美術館所蔵品展が開かれたことがあったが、閉館後のコレクション展は初めて。今回は、絵画や彫刻、写真など計62点が展示されているとのことで、油彩が最も多い。

 夕張市美術館のコレクションは、炭鉱に関係した作品ばかりではないのはもちろんなのだが、今回の展覧会ではやはり、炭住や炭鉱設備を描いた風景画などが目を引く。
 畠山哲雄の絵が「発電所の(ある)風景」「ずり山のある風景」など10点。「モニュメントのある風景」は、戦中に戦意高揚のために作られたコンクリート像がモティーフ。穏やかな色調とオーソドックスな構図の作が多い。大黒孝儀「選炭場」もやわらかい描写が特徴。
 輪郭線が特徴の小林政雄は「鉄塔」「炭鉱譜」など。遊園地のあった錦沢について描いた「夕張風景抄絵巻」という絵巻物がユニークだ。
 キュビスムに影響を受けた木下勘二は、夕張メロンの箱が出品されていた。あの、同心円2個からなるメロンの図案の原画を担当したのが木下だったのだ。

 大崎盛の写真もいい。
 わずか3輛の貨車を引いた古いSLをとらえた「錦沢」、カラーで夜の炭住街を見下ろした「ふるさとの灯」など、こういうかたちで夕張を記録した人がいたということが、本当にすばらしい。

 いちばん巨大なのは岡部昌生のフロッタージュ「夕張のこども」。
 1977年卒の清陵小学校の6年生の自画像をこすり取っている。

 この岡部さんの作品が貴重だと思うのは作品以外の理由もある。
 またこの話を蒸し返すのか―といわれるかもしれないが、やはり絵画や写真は、本町など市の北のほうを題材にしたものが多いように感じられるからで、この岡部さんの作品が清水沢(南のほうの中心地区)を題材にしていること自体、意義深い。
 夕張は南北に細長く、広いマチなのに、今回の出品作では、鹿島や南部、楓といった地区はほとんど等閑に付されているのが残念。ついでにいえば、最後のコーナーにある佐藤時啓「Yubari (Photo Resriation)」シリーズ5点のうち3点が真谷地と題されている。ほかに真谷地を扱った作品もない。


 全体としては、戦後の北海道経済を支えた炭鉱の貴重な記録や、夕張をめぐるさまざまな作品を見ることができる意義深い企画である。
 ただ、この会場のことゆえ、図録はおろか、出品目録もない。
 北海道では図録が売れないのは周知のことだが、簡便なものでいいからまとめてほしい。

 さらに欲を言えば、夕張は、道内にたくさんあった炭鉱のひとつにすぎない。
 三笠や美唄、空知管内沼田町や釧路などにも、炭鉱の文化はあり、それを表現した美術は存在したはずである。
 より広いパースペクティブで、炭鉱をめぐる表現を視野におさめた展覧会を見てみたい。



2016年10月8日(土)~30日(日)午前10時~午後7時(入場は30分前まで)、会期中無休
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 ESTA 11階)※ビックカメラの上です


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