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■戦前の出版検閲を語る資料展「浮かび上がる検閲の実態」(2018年1月10日〜2月3日、神田小川町)=東京'18-イ(6)

2018年02月01日 21時34分26秒 | 道外で見た展覧会
承前)

 用事で神田小川町近辺に行ったあと、また少し時間ができた。

 せっかくなので、ツイッターでときどき会話している「Shirosan001」さんからおすすめされていた、古書会館での「浮かび上がる検閲の実態」展をのぞいてみることにした。
 美術展ではないが、冒頭画像にあるような美術関連書も展示されていた。


 筆者は以前『検閲と文学 1920年代の攻防』を読んだことがあり、この分野の基礎知識はあるつもりだったが、新たに知り得たことも多かった。
 左の画像は、検閲にひっかかった新聞をすばやく押収するために、配布ルートを当局が把握していたことなどを示したパネル。

 ところで、戦前の検閲の標的といえば、まず左翼関係の書物という印象があったが、「風俗壊乱」もターゲットになっていたようだ。
 安田徳太郎は、ドイツでベストセラーになったシュトラッツ著『女性美の研究』という本を翻訳してアルス社から出版しようとしたところ、検閲官が註文をつけ、やむなく図版の多くを削除せざるをえなかったという。
 今回、そのことを後書きで不満を漏らしているページが、開かれていた。
 安田は医師で、戦後はフックスの大著『風俗の歴史』(全9冊、角川文庫)の翻訳など、手がけた本は多い。戦前から左翼シンパであったが、自らは左翼ではないと言い、検閲にひっかかりそうなところで筆を納めてしまう巧みさで発禁をまぬかれていた-というくだりをパネルで読んで、少し笑ってしまった。


 あと、左翼だけではなく、右派の本にも検閲官は目を光らせていたようだ。
 というのは、右翼なので、皇室をめぐる記述などがたくさん出てくるのだが、その用語が誤っていたりすると、畏れ多いということになるのである。

 神田は世界最大級の古書のマチであるだけに、戦時中の古書の流通統制についても説明パネルがあった。
 お上は、高値の稀覯本を取り締まり、古書価格を下げたがっていたようだが、そんなことがうまくいくはずがないのであった。

 ともあれ、日本を含む世界各国で政府の強権的な姿勢が目立つ昨今、戦前とおなじような検閲制度が復活することはなくても、インターネットなどで、安全保障や機密保持を掲げた統制が強まる可能性もないとはいえず、その意味ではタイムリーな展示だったと思う。
 

2018年1月10日(水)〜2月3日(土)
東京古書会館2階(千代田区神田小川町3-22)






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