1932年、帯広生まれで、道内の前衛書をリードする書家のひとり、長沼透石さん(毎日書道展審査会員、奎星会同人会員・審査会員)。地元・帯広では何度か展覧会をひらいており、札幌では初となる個展です。
おなじく奎星会に属する札幌の竹下青蘭さんの師匠さんにあたるそうです。
「師匠でも、ぜんぜんわたしと違うでしょう?」
と竹下さんはおっしゃっていました。「展(2)」の、飛沫の散り方などをのぞけば、たしかにあまり共通点はみられません。
親族がいた関係でしばしば来道していた現代書の大家、上田桑鳩に直接手ほどきを受けたそうです。
(話はそれますが、桑鳩の作品は、滝川市美術自然史館に常設されています。すばらしいので、ごらんになっていない方はぜひ一度)
文字ではない前衛書を多く手がけてきましたが、今回は、文字性を主とした作品がほとんど。
白抜きで神代文字を表現した「古代十二支(1)」、曲線の呼吸の心地よい「忘」など、ユニークな作品がならびます。
冒頭の画像の手前は「ECHO <天>による」。
空白の取り方が大胆。でも、その空白が、空虚ではなく、豊かさの表現に見えるのは、筆者だけでしょうか。
極太の線、というよりは、縞模様のある矩形が画面を横断する「寿ぐ」。日本画用ローラーを用いたそうです。墨にはゼラチンを混ぜています。
「墨にボンドを入れる人は多いですが、わたしはあまりやりません」
と長沼さん。
しぶきや、金色の点など、いろんな要素を盛り込みつつも、欲張りでうるさい印象がなくまとめているのはさすがです。
筆のかわりに、段ボールを使った作品もあるということです。
カメラがこわれているので、画像が悪いですね。
左から2番目の書が、先に述べた「忘」です。
今回の個展について
「わたしとしては通過点だと思っています」
と述べた長沼さん。
静かな、しかしはっきりした口調に、芸術家の気概を見た思いです。
出品作はつぎのとおり。大きさの単位はセンチ。
堂々と…… 〈看脚下〉による (170.0×120.0、1993年)
炸裂する黒 〈無〉による (180.0×90.0、2003年)
散律A 非文字 (70.0×70.0、07年)
朴直 〈邊〉による (120.0×90.0、1998年)
忘 (180.0×90.0、2002年)
揺曳 〈臥薪嘗胆〉による(120.0×120.0、05年)
寿ぐ 〈寿〉による (同、07年)
展(1) 〈己衣〉による (140.0×70.0、04年)
散律B 〈立身早慕干層塔閲世今知百戯場〉(120.0×120.0、06年)
創 (19.0×15.0、03年)
永寿 〈永〉による (120.0×120.0、07年)
古代十二支(1) (同)
展(2) 〈与多〉による (140.0×70.0、06年)
目覚め トンパ文字による (140.0×70.0、02年)
散懐 〈久仁〉による (110.0×110.0、03年)
展(3) 〈向〉による (180.0×60.0、07年)
古代十二支(2) (19.5×26.0、03年)
展望 〈加久〉による (120.0×120.0 06年)
流転 春夏秋冬(トンパ文字による)(120.0×120.0 03年)
ECHO 〈天〉による (120.0×120.0 07年)
匿爪 〈猛獣之攫也匿其爪〉(70.0×70.0 04年)刻
展(4) 〈止知〉による (140.0×70.0 06年)
07年9月25日(火)-30日(日)10:00-18:00(月曜休み、最終日-16:00)
コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下 地図C)
参考までに、27日の毎日新聞北海道版の記事から一部を引用しておきます。
(冒頭略) 透石さんは帯広市生まれ。母校・帯広柏葉高校で経済を教えていたが、同僚に勧められて書道免許を取得、書道教諭に転向する一方、“前衛書の旗手”と称された上田桑鳩(そうきゅう)の指導を受け、高校生時代の師・添田詩石(しせき)と書の研究団体「奎星(けいせい)会おびひろ」を結成。地域文化の振興・向上に努め、多くの指導者を育ててきた。
作家活動も順調で75年に奎星会新人賞を受賞して中央書壇にデビュー。斬新でシャープな空間の切り方が特徴の書は現代的と評され、奈良の東大寺昭代納経推薦作家として華厳経を分担執筆(同寺宝物殿収蔵)、「十勝川治水の碑」なども揮毫(きごう)している。
展示しているのは、ここ3、4年の近作が中心。前衛書家だが非文字系の作品は1、2点と少ない。「前衛書になじみの薄い来場者にも現代書の面白さや創造性を追及した結果の作品を見てほしい」と“文字性を残した”作品を中心に並べている。
「古代十二支(1)」は日本古来の文字を作品化したもので淡墨系の墨を吹き付けて白い文字を浮かび上がらせている。一部にグラデーションをかけてアート性を出している。「揺曳(ようえい)(臥薪嘗胆による)」は渇筆を強調した草書風の作。桑鳩の書風に繋(つな)がる作で、(桑鳩の書を思い出し)懐かしさやうれしさを感じるという。また、いろは48文字から2字ずつ書き出した草仮名作品のうちの1点「展2(与多(よた)による)」は細い横線の集合で構成している。滲(にじ)みと飛沫(ひまつ)が特徴で、「かな作品として見ると、これまで誰もやってこなかった挑戦作」だという。
書とかかわって40年、「師・桑鳩の教え『師の真似(まね)をするな。人の真似をするな。自分の真似もするな』を守ると同時に、『一点に止まってはだめ、絶えず進化しろ』を心掛けながら作家活動を続けてきた。作品の中にそれが見えたらうれしい」と今展への思いを語る。(以下略)