北海道美術ネット別館

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■ドラマティック・コレクション(3月14日まで)

2007年03月12日 22時09分38秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 いまさら筆者が言うまでもないことですが、道内各美術館とも、客足の伸び悩む冬場は、収蔵品を中心に組み立てた展覧会の集客に知恵を絞ります。今回の札幌芸術の森美術館の展覧会は、ただ作品をならべただけではなく、いかに観客が心にのこる鑑賞ができるか(あるいは、観客の心にのこる見せ方ができるのか)を追求したユニークなものとなりました。

 展示室に入ると、それぞれの作品について鑑賞者が書いた、胸にうかんだことばを、壁に貼り付けたり、プリントアウトしてファイルにおさめたりしています。
 したがって、会期末に近づけば近づくほど、ことばの数は増えていくことになります。

 「ことばにしてのこす」ということは、意外にたいせつな行為なんじゃないかと思います。
 こんな物好きなブログをやっている筆者はともかくとして、たいていの人は、見た感想をいちいちことばにしないんじゃないでしょうか。そして、茫漠とした印象だけを抱き、それも時間とともにうすれていくのです。
 でも、たとえ短くても、ことばにのこしたら、その人は、作品のことを、しばらくはわすれないのではないでしょうか。
 しっかりと鑑賞するために、そして作品の記憶をしっかり脳裡に刻印するために、ことばというのは重要な手段になるのです。

 i-podを使った作品解説というのも新機軸です。
 鑑賞者のことばがすでに壁に架けられているので、これ以上解説パネルを増やしてごちゃごちゃさせないという役割を果たすと同時に、作家の他の作品の写真も見ることができる(まあ、小さな画像ですが)というのはうれしいです。
 i-podは、会場の出口でことばを書いた後で、借りるしくみになっています。i-podに学芸員がふきこんだ解説が、鑑賞者のすなおなことばの発露のさまたげにならないようにするためでしょう。
 従来の音声ガイドが、けっこういい値段(500円とか)を徴収するのに対し、今回のi-podは無料で、しかも使い勝手もすぐれています。ソフト制作も容易で、今後、全国の美術館にひろがっていくかもしれません。

 作品を見ながら、鑑賞者たちのことばを読んでいくと、高校生がきらりとひかるひとことを残しているのに感心しました。
 メモしたわけではないので、正確ではないのですが、深井隆の木彫については、こんなことばをのこした高校生がいます。
「王のいすやリンゴには触れてはいけない。触れたら最後、アダムとイブのように世界を追われることになる」
 うまいなあ。
 それにくらべると、年配の男性は、作品を味わうのではなく、日常的な理屈にむりにひきつけて解き明かそうとする傾向がつよく、残念でした。


 さて、作品について、いちばん印象的だったのは
道立旭川美術館って、いい作品を所蔵してるなあ(笑)ということ。
神山明「いつもの道に迷い込む」
難波田龍起「生の交響詩」
舟越 桂「午後にはガンター・グローブにいる」「夜は夜に」
深井隆「逃れゆく思念 青空または瞑想」
の5点が道立旭川美術館から出品されているのですが、この展覧会を見た人なら、この5点が、展覧会の中で重要な位置を占めていることがよくわかると思います。というか、この5点抜きには展覧会が成立しないのです。

 筆者は、イメージをことばにする作品として、「生の交響詩」を選びました。
 ただ、色の濃淡と、幾層かに折れ曲がった直線の集積からなる抽象画が、どうしてこんなに深い精神的世界を表現しうるのか。
 いつ見ても、筆者にとって、難波田芸術は、大きな謎なのです。

 このほか、高橋禎彦(ガラス)、八木伸子(油絵)、砂澤ビッキ(木彫)や、四谷シモンをモデルにした10人の写真家による写真などが、展示されています。


1月20日(土)-3月14日(水)9:45-17:00(入場は16:30まで)、月曜休み(2月12日は開館し、翌13日は休み)
札幌芸術の森美術館(南区芸術の森2)

ギャラリー・トーク 舟越桂-彼方へのまなざし=3月10日(土)、14日(水)14:00-14:30


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