1929年の米国大恐慌のとき、崩壊した世界の株式市場の立て直しに動いたのはJP Morganだった。かつて本部住所であった23 Wall Streetと言えば、社名を名乗らなくてもJP Morganを意味するほど、米国金融界において特別の名声をほしいままにしてきた。またこの建物は1920年に無政府主義者によって爆破された際の損傷をそのまま残してテロに対して屈しないことを今に伝えている、NYのLand Markでもある。
JP Morganは米国で金融界を目指す若者にとってはまさに夢の職場と言っても良い。強固な財務基盤を背景に徹底した保守的なリスク管理と、他社に先駆ける革新的な商品開発とで、いくつもの危機を乗り越えてきた歴史が燦然と輝いているからである。それが今年に入り、英国におけるヘッジ取引失敗、カリフォルニア州でのエネルギー取引に関する当局からの調査に加え、バークレイズ銀行に端を発したLIBORの不正疑惑への関与がうかがわれるなど、一気に問題案件を抱えることになった。単に課徴金や罰金といった経済的な損失にとどまらず、長年築きあげてきた市場からの信頼を一気に喪失しかねない。
JP Morganは米国エスタブリッシュメントの象徴ではあるが、かつて英国人のそれもたたき上げの行員を頭取に抜擢し、彼が期待にたがわぬ活躍をしたこともある。伝統と進取の気風を兼ね備えてきたJP Morganは果たしてこの危機を乗り切れるのだろうか。1980年代、英国に在住した時に、London,CityにそびえるDark BrownのMorgan Houseをまぶしく見たことがある。金融再編でChase Manhattanと合併したJP Morganだが、当面は豊富な資金により財務的には懸念はないと思うものの、その行く末には興味が尽きない。