朴新大統領の父親である朴正煕氏が軍事クーデターで全権を掌握した時のことは今でも比較的よく覚えている。国家非常事態宣言、戒厳令布告やクーデター、そしてお決まりの軍事評議会などという尋常ではない重い響き、そして要人の暗殺といった、子ども心にはとてつもない想像を掻き立てる大きな文字が新聞に踊っていた。1960年代は東西冷戦の真っただ中で、そこかしこに東西両陣営の傀儡政権が誕生していた、まさに軍事クーデターと首脳暗殺の時代だった。文字通り、政治家はいつ命を落としても不思議ではなかった。
現代では、テロ集団による暗殺こそ継続しているが、一夜にしてクーデターによって国家がひっくり返るという例はあまりない。東欧の民主化やアラブの春など、真綿で首を絞めるような政権交代が主流になってきている。それだけに、どこに国家権力が存在するのか、見えずらくなったともいえる。朝起きてみたら世の中が変わっていた、というような劇的な政治事件はインターネット全盛のこの時代にそぐわないのかもしれない。また、政治家も、命を張っているという事の実感を持てなくなってきているのではないか。