![]() | 理解の秘密―マジカル・インストラクション (BOOKS IN・FORM Special) |
クリエーター情報なし | |
NTT出版 |
●ターゲットを絞る---説明力を高めるその1
では、説明力を高めるにはどうしたらよいであろうか。 まずは、回り道のようであるが、「相手・状況を知ること」「相手の気持ちを共感できること」、その上で、4章で述べるようなわかりやすい文書を作るためのリテラシー(約束事)を身につけることである。 まずは回り道の一つ、「相手・状況を知ること」から。 たとえば、本の企画書を出すときに、必ず、対象読者は誰かを記す。本書では、それは、マニュアルに不平不満を抱いている方々、文書作成の仕事にかかわっている人々、将来、文書作りに携わりたい学生となる。 誰を対象読者にするかによって、書く内容も書き方も変わってくる。本書でも、もし、心理学を学んでいる学生を対象読者としたなら、こんな内容や書き方にはなっていない。 アメリカのある教科書会社では、テキストは、想定読者に一度読んでもらって、わかりにくいところを見つけてもらうそうである。 説明のターゲットを絞ること。これが、「相手・状況を知ること」の第一歩である。 「誰にもわかる」説明は、子供を想定すれば可能ではあるが、大人が読むマニュアルの想定読者はそうはいかない。そこで、「家庭の主婦で30代」とか「コンピュータをはじめて購入する高齢者」といった絞り込みをする。
●ユーザに評価してもらう---説明力を高めるその2
さらに、その上で、その相手や状況を分析することになる。 実はこれがなかなか難しい。後で紹介するように、心理学が役立つのだが、誰もが心理学を知っているわけではない。 しかし、それほど体系的に深く、ということでなければ、ある程度の分析は誰でもできる。 想定される対象者に近い身の回りの人をつかまえて、自分の説明をチェックしてもらう。あるいは、想定される対象者に関する情報をあれこれ意図的に集めてみる。 これに類したことを体系的にやるとなると、ユーザビリティ(usability; 使い勝手)・テストをすることになる。 ユーザビリティ・テストとは、開発された商品を、想定されたユーザに想定される状況で使わせてみて、その使い勝手を調べることである。 それにならって、マニュアルにおける説明が十分かどうかを、想定したユーザを使って、実際に読ませながら操作させてみるのである。 ISO13407というインタフェースに関する国際標準化機構の標準規格として、ユーザビリティ・テストが義務づけられるようになってきて、日本でも今、その対応に負われている。 ところで、マニュアルの作成者に、このテスト場面に立ち会ってもらうと、はじめての人は、ショックを受けるらしい。ユーザが思いもかけない行為をするからである。さらに、書き手は、どういうわけか、次のような奇妙な錯覚をもっているらしいからである。 錯覚その1は、自分が苦労して使った書いたものは、相手も苦労して読んでくれるはずとの錯覚。 錯覚その2は、書かれたものはそのままわかってもらえるはずとの錯覚。 図 ユーザビリティ・テストの場面 こんな錯覚を打ち破る効果も、ユーザビリティ・テストにはある。 ユーザビリティ・テストでは、心理学で使われている研究手法がそのまま使われている。 図に示したのは、観察法の例である。 これ以外にも、マニュアルを読みながら頭の中に浮かんでくることをしゃべらせて、その内容を分析することによって、ユーザの考えていることを知る、プロトコル分析。 大げさになるが、ユーザがマニュアルや機械のどこを見ているかを、アイカメラを使って調べる生理計測。 あからじめ決めておいた視点、たとえば、「わかりすさ」「操作のしやすさ」「おもしろさ」などから何段階かで評価してもらう評定法。
●心理学を役立てる---説明力を高めるその3
こうした心理計測の手法もさることながら、心理学には、ユーザを知るために有効な科学的な枠組や知見がたくさんある。 たとえば、筆者の研究している認知心理学。 マニュアルを読むときに、ユーザはどのように既有の知識を使って理解しているかを知ることができる。 あるいは、読書心理学や文章心理学。 そこでは、人がどのように文書や文を読み、それを頭の中で理解するかを知ることができる。 いずれについても、本書の随所で陰に陽に顔を出すことになるが、心理学は、「ユーザ・状況を知る」ための有効なプラットフォームを提供することは知っておいていただきたい。
●ユーザに共感する---説明力を高めるその4
説明力を高めるもう一つの回り道は、「ユーザへの共感性を高める」ことである。 共感といっても、ユーザと一緒になって泣いたり喜んだりすることではない。 ここで言う共感性とは、いわば、知的共感性のことである。 想定するユーザが、何を知っていて、マニュアルを読みながら何を考え、どのようにマニュアルを読むのかに、どれほど思いをはせられるかである。 ユーザビリティ・テストをする以前の、心構えである。 知的共感性を実感してもらうには、2人で田中さんの噂話をしている場面を考えるてみるとよい。これが楽しい?会話として成立するためには、次の3つ認識(知的共感性)が前提になっている。
・2人とも田中さんについてそれなりの共通知識がある
・一方は、しかし、その噂は知らない(知識がない)
・この噂によって、2人の間には新しい知識が共有できる
多数のユーザを想定するような場面では、書き手にここまでの知的共感性を求めるのは無理であるが、心構えとしてはあってよい。
知的共感性は会話能力によって養われるところが大きい。書くことは孤独な営みであるが、「わかりやすすく書く」ことは、すぐれて社会的な営みなのだ。
筆者が私淑しているR.ワーマンの翻訳本が最近また出版された。題して「それは情報ではない」(金井哲夫訳、インプレスコミュニケーションズ)。
そこでは、知的共感性という言葉こそ使われていないが、会話こそ、ビジネスの最重要な仕事であるべきことが全編にわたって強調されている。 ちなみに、R.ワーマンの他の2冊の翻訳本は次の通りである。 「情報選択の時代」(日本実業出版社) 「理解の秘密」(NTT出版)
さらに余談じみた話を一つ。 女性の会話能力は男性のそれとくれべるとはるかに高い。年一度開かれるのテクニカル・シンポジウムやTC関連のセミナーなどにいくと女性の数の多さ---過半数を越えるの普通---に驚かされる。 わかりやすく書く仕事は、女性の天職かもしれない。
では、説明力を高めるにはどうしたらよいであろうか。 まずは、回り道のようであるが、「相手・状況を知ること」「相手の気持ちを共感できること」、その上で、4章で述べるようなわかりやすい文書を作るためのリテラシー(約束事)を身につけることである。 まずは回り道の一つ、「相手・状況を知ること」から。 たとえば、本の企画書を出すときに、必ず、対象読者は誰かを記す。本書では、それは、マニュアルに不平不満を抱いている方々、文書作成の仕事にかかわっている人々、将来、文書作りに携わりたい学生となる。 誰を対象読者にするかによって、書く内容も書き方も変わってくる。本書でも、もし、心理学を学んでいる学生を対象読者としたなら、こんな内容や書き方にはなっていない。 アメリカのある教科書会社では、テキストは、想定読者に一度読んでもらって、わかりにくいところを見つけてもらうそうである。 説明のターゲットを絞ること。これが、「相手・状況を知ること」の第一歩である。 「誰にもわかる」説明は、子供を想定すれば可能ではあるが、大人が読むマニュアルの想定読者はそうはいかない。そこで、「家庭の主婦で30代」とか「コンピュータをはじめて購入する高齢者」といった絞り込みをする。
●ユーザに評価してもらう---説明力を高めるその2
さらに、その上で、その相手や状況を分析することになる。 実はこれがなかなか難しい。後で紹介するように、心理学が役立つのだが、誰もが心理学を知っているわけではない。 しかし、それほど体系的に深く、ということでなければ、ある程度の分析は誰でもできる。 想定される対象者に近い身の回りの人をつかまえて、自分の説明をチェックしてもらう。あるいは、想定される対象者に関する情報をあれこれ意図的に集めてみる。 これに類したことを体系的にやるとなると、ユーザビリティ(usability; 使い勝手)・テストをすることになる。 ユーザビリティ・テストとは、開発された商品を、想定されたユーザに想定される状況で使わせてみて、その使い勝手を調べることである。 それにならって、マニュアルにおける説明が十分かどうかを、想定したユーザを使って、実際に読ませながら操作させてみるのである。 ISO13407というインタフェースに関する国際標準化機構の標準規格として、ユーザビリティ・テストが義務づけられるようになってきて、日本でも今、その対応に負われている。 ところで、マニュアルの作成者に、このテスト場面に立ち会ってもらうと、はじめての人は、ショックを受けるらしい。ユーザが思いもかけない行為をするからである。さらに、書き手は、どういうわけか、次のような奇妙な錯覚をもっているらしいからである。 錯覚その1は、自分が苦労して使った書いたものは、相手も苦労して読んでくれるはずとの錯覚。 錯覚その2は、書かれたものはそのままわかってもらえるはずとの錯覚。 図 ユーザビリティ・テストの場面 こんな錯覚を打ち破る効果も、ユーザビリティ・テストにはある。 ユーザビリティ・テストでは、心理学で使われている研究手法がそのまま使われている。 図に示したのは、観察法の例である。 これ以外にも、マニュアルを読みながら頭の中に浮かんでくることをしゃべらせて、その内容を分析することによって、ユーザの考えていることを知る、プロトコル分析。 大げさになるが、ユーザがマニュアルや機械のどこを見ているかを、アイカメラを使って調べる生理計測。 あからじめ決めておいた視点、たとえば、「わかりすさ」「操作のしやすさ」「おもしろさ」などから何段階かで評価してもらう評定法。
●心理学を役立てる---説明力を高めるその3
こうした心理計測の手法もさることながら、心理学には、ユーザを知るために有効な科学的な枠組や知見がたくさんある。 たとえば、筆者の研究している認知心理学。 マニュアルを読むときに、ユーザはどのように既有の知識を使って理解しているかを知ることができる。 あるいは、読書心理学や文章心理学。 そこでは、人がどのように文書や文を読み、それを頭の中で理解するかを知ることができる。 いずれについても、本書の随所で陰に陽に顔を出すことになるが、心理学は、「ユーザ・状況を知る」ための有効なプラットフォームを提供することは知っておいていただきたい。
●ユーザに共感する---説明力を高めるその4
説明力を高めるもう一つの回り道は、「ユーザへの共感性を高める」ことである。 共感といっても、ユーザと一緒になって泣いたり喜んだりすることではない。 ここで言う共感性とは、いわば、知的共感性のことである。 想定するユーザが、何を知っていて、マニュアルを読みながら何を考え、どのようにマニュアルを読むのかに、どれほど思いをはせられるかである。 ユーザビリティ・テストをする以前の、心構えである。 知的共感性を実感してもらうには、2人で田中さんの噂話をしている場面を考えるてみるとよい。これが楽しい?会話として成立するためには、次の3つ認識(知的共感性)が前提になっている。
・2人とも田中さんについてそれなりの共通知識がある
・一方は、しかし、その噂は知らない(知識がない)
・この噂によって、2人の間には新しい知識が共有できる
多数のユーザを想定するような場面では、書き手にここまでの知的共感性を求めるのは無理であるが、心構えとしてはあってよい。
知的共感性は会話能力によって養われるところが大きい。書くことは孤独な営みであるが、「わかりやすすく書く」ことは、すぐれて社会的な営みなのだ。
筆者が私淑しているR.ワーマンの翻訳本が最近また出版された。題して「それは情報ではない」(金井哲夫訳、インプレスコミュニケーションズ)。
そこでは、知的共感性という言葉こそ使われていないが、会話こそ、ビジネスの最重要な仕事であるべきことが全編にわたって強調されている。 ちなみに、R.ワーマンの他の2冊の翻訳本は次の通りである。 「情報選択の時代」(日本実業出版社) 「理解の秘密」(NTT出版)
さらに余談じみた話を一つ。 女性の会話能力は男性のそれとくれべるとはるかに高い。年一度開かれるのテクニカル・シンポジウムやTC関連のセミナーなどにいくと女性の数の多さ---過半数を越えるの普通---に驚かされる。 わかりやすく書く仕事は、女性の天職かもしれない。
いらいらしながら結局、最後まで
それにしても、日本チームのボールさばきのうまさ
ただし、ゴールとは関係のないところでのさばきのうまさ
うーん、欲求不満のたまるゲームが続く
もっと、弱いチームとやってください
それにしても、日本チームのボールさばきのうまさ
ただし、ゴールとは関係のないところでのさばきのうまさ
うーん、欲求不満のたまるゲームが続く
もっと、弱いチームとやってください
