1.1 「ヒルキモをピラッコしてください」
----専門用語を無造作に使う
●「ヒルキモをピラッコしてください」
この1節、誰もわかる人はいないはずである。なぜなら、「ヒルキモ」も「ピラッコする」もまったくの造語だからである。 マニュアルには、あなたにまったく馴染みのない用語が実にたくさん使われている。機械が最新のものであればあるほど、そのマニュアルは、新しい用語で一杯になる。 今、手元にあるデジタルカメラの目次から、筆者にとってのそんな用語を拾ってみる。目次からしてこうである。本文中から拾ったらどれほどの数になるか。
例1 手ブレ メモリーフル表示 9ゾーンクローズアップ機能 フラッシュメモリー オートプレイ機能 ビデオキャプチャー機能
●「言葉が通じない」
リクルートからNTTドコモに移り、iーmode(携帯電話)を開発した松永真理氏の書いた「iモード事件」(角川書店)に、「言葉が通じない」としてたくさんのおもしろい例が挙げられている。言葉パズルのつもりで意味を推定してみてほしい。すべて話ことばであるのだから、それを耳にしたときの松永氏の驚きは押して知るべし。括弧内の漢字はヒント。
例2 (1)「あのアイドルは、げっく(月九)だっけ」 (2)「きょうらん(共覧)して」 (3)「速度は ざんぱーすー で」 雑誌編集業界からデジタル最先端の通信業界に入った松永氏のびっくり仰天物語の一つが、言葉の問題であったのが象徴的である。これと同じたぐいのびっくり仰天を、マニュアルを読むたびに経験することことになる。
●言葉は文化なり
マニュアルの世界と松永氏の技術開発の世界、一見別物のようにみえるが、言葉によって異なった世界が交流しようとしている点、そして、お互いの世界で使われている言葉が非常に異なっているためにバリアーが生じている点では、共通している。 言葉は、文化の中核である。言葉が文化を作り出しているようなところがある。ある世界の一員であることの証明は、その世界特有の言葉が使えるかどうか、しかもごく自然に使えるかどうかにかかっている。 だから---というほど意識的だとは思えないが---外部の人にはわからない業界用語や社内用語、あるいは、親しい仲間内だけで使う若者言葉が次々と発明?されるのはゆえなきことではない。 技術の世界にも、これと同じような事情があるが、もう一つ、新しい技術を新しい用語で表現しなければならないという事情が加わる。かくして、マニュアルには、この2つが重畳して素人にはわけのわからない言葉が乱れ飛ぶことなる。 異文化交流がないなら、とりたてて言葉の問題はない。しかし、異文化交流が必然となる状況、たとえば、新しい技術で商売をしたい、そして、誰もがその新しい技術を使いたい、というような状況では、どうしても言葉の壁にぶつかることになる。
例2の解説<---小さい文字で (1)月曜九時のドラマに出演 (2)みんなに回して (3)通信速度は384キロビット・パー・セック(kbps).マージャン用語。 **********************************************