月刊「祭御宅(祭オタク)」

一番後を行くマツオタ月刊誌

147. 文身2(月刊「祭」2019.8月1号)

2019-08-01 18:30:10 | 民俗・信仰・文化-伝承・信仰-
前号で魏志倭人伝の時代より続く入墨文化と海女の玉取り、そして屋台の水引幕まで考えました。
今号ではつい最近まで入墨が「文化として」定着していた様子を下に紹介する本で見ていきます。



●宮本常一「イザベラ・バードの旅『日本奥地紀行』を読む」(講談社学術文庫)2014*より
明治十一年(1875)より幾度か日本を訪れたイザベラバードは、単身で日本を旅しました。それを民俗学者の宮本常一氏が約百年後に講義をしています。その中で入墨に関する記述がいくつかありました。一つは日本上陸間もなく見た人々、一つは人力車夫、もう一つがアイヌの女性です。ではそれぞれ見ていきましょう。引用は斜体字でイザベラの本文は(イ)、宮本の見解は(宮)とします。
* イザベラバード"Unbeaten Tracks In Japan"1885を高梨健吉が訳した「日本奥地紀行」が、平凡社東洋文庫から1973年に出版されました。それをもとに、1976年から1977年にかけて宮本常一が購読する講義を行いました。その講義をもとに1984年に未來社より刊行された『旅人たちの歴史3 古川古松軒/イザベラバード』の後半部分を文庫化したものです。

●はじめて接触した日本人
(イ)彼らは皆単衣の袖のゆったりとした紺の短い木綿着をまとい、腰のところは帯で締めていない。-中略-皮膚はとても黄色で、べったりと怪獣の入れ墨をしている者が多い。
かなり入れ墨が一般的だったようですね。横浜の港の様子です。


●人力車夫
(イ)上着はいつもひらひらと後ろに流れ、龍や魚が念入りに入れ墨されている背中や胸をあらわに見せていた。入れ墨は最近禁止されたのであるが、装飾として好まれたばかりでなく、破れやすい着物の代用品でもあった。
と人力車夫が禁止後も入れ墨を入れており、それは服の代用品だったことがわかります。さらに、ちょんまげも未だにしていることにふれ、宮本は
(宮) 車夫というのは、入れ墨をしているし、ちょんまげを結っていて、とても時代遅れの人たちのように思うのですが、とても良い人たちなのです。
と車夫たちが文明開化とやらに乗り切れてない状態を示しながらも、イザベラの車夫に対する肯定的な言葉を引用しました。原文とは前後しますが、あえて順序を入れ替えて紹介します。
(イ) 今まで私に親切で忠実に支えてくれた車夫たちと別れることになった。彼らは私に細々と多くの世話をしてくれたのであった。いつも私の服から塵をたたいてとってくれたり、私の空気枕をすくらませたり、私にはなをもってきてくれたり、あるいはやまを歩いてのぼるときには、いつも感謝したものだった。
車夫が悪い水を飲んでしまい痛みと吐き気に襲われてついてけなくなってしまった時はこんなことがあったそうです。
(イ) 後にのこしておくことにした。彼は契約を厳重に守って代わりのものを出し、病気だからといってチップを請求することはなかった。その正直で独自のやり方が私には嬉しかった。
(宮) と見た目には無智に見える車夫がそうではなかった。これはイザベラ・バードだけではなく、日本を旅行した外(国)人の記事の中にも人力車夫の悪口は殆ど出てこないのです。-中略-一番外(国)人に接触する機会を多く持ったのはこの
人力車夫たちで、彼らが外人に非常に良い印象を与えていたのです。

このように、入れ墨、ちょんまげの風紀を乱す要因とされた人達が、実際のところ開国間もない日本の外交を下支えしていたことがわかります。
最後に入れ墨、ちょんまげの車夫たちを言い表したイザベラの言葉を記します。
(イ) 車夫たちが私に対して、またおたがいに、親切で礼儀正しいことは、私にとっていつも喜びの源泉となった。

●アイヌの女性
イザベラ・バードが記述しているもう一人の入れ墨がある人物アイヌの女性です。ご存知の方が多いと思われることは、口の周りに入れ墨をする風習です。病気になったアイヌ女性をイザベラ・バードが看病するときの記述です。
(イ) 私は彼女の熱い手をとった。非常に小さな手で、背中には一面に入れ墨がしてあった。
(宮)これを見ると背中にもしている。こういうことをこんなものを読んで見ないとわからないものです。
アイヌの女性は口の周りだけでなく、背中にも入れ墨があったことがわかります。また、この頃はアイヌに対する強い偏見が倭人の中に根強く広まっていたことも記述しています。一方でイザベラ・バードは彼女を手厚く看護し快方にむかわせました。宮本氏は彼女のヒューマニスティックな態度が日本人に足らないものを教えてくれるとししています。



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