保津川下りの船頭さん

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船頭泣かせの向かい風に、手負いの船頭立ち向かう。

2011-08-01 22:06:57 | 船頭
今日の保津川には南よりの風が強く吹き、比較的凌ぎやすい
涼しいい日となったのですが・・・この「南寄りの風」と
いうのが実は私たち船頭にとって最も厄介な
「船頭泣かせの風」なのです。

つまり、向かい風ということです。

保津川下りの舟は高瀬舟という川舟独特の形状で
船底が平らなため、風を受けることに最も弱い。
特に今の舟は暑い日光を遮断するため「日よけテント」という
ビニール製の屋根が付いた「屋形船スタイル」で運航している
ことで、風はヨット以上に舟の進行に影響します。
向かい風ということは、舟を前に進めるために我々船頭は
フルパワーで臨まなくてはいけないということなのです。
強い向かい風にあおられながら、力いっぱい舟を漕ぎ、竿を差します。
体の筋力は疲労し、息が切れるぐらいの厳しい条件なのです。

さてさて、このような自然環境の時、私といえば二日前に
再び右足のふくらはぎを負傷、歩行すら痛みで困難な状態下で、
無理をして翌日、操船をしたため、左足の膝も痛めてしまったのです。

昨日は風のない穏やかな天気。
「なんとかいけるだろう・・・」と休まず出勤しました。

この日の一回目、舟の舳先部で竿たけを差していた時のこと。
右足のふくらはぎを庇いながら、竿を川底へついていると、
突然、竿が底岩の間に挟まり、抜けなくなったのです。
あっ、引っかかった!」とわかった瞬間、抜けなくなった竿を
持っている左手に強烈な力が加わり、一瞬で私の体ごと、後方の
櫂場のハリまで引きずり飛ばしたのです。

このとき左足の膝を舟板に打ち付け、倒れ込んだのです。
左足の膝はズボンの上からでもかなり擦り剥いているのは
わかりました。それより気になったのが、立ち上がった時に
左の膝に走った激痛です。飛ばされた時におかしな角度で
ぐねったのかもしれません。屈伸すると痛みが走りました。
また、起き上がる際に以前から痛め、体重が乗らないように
庇っていた右足のふくらはぎにも、瞬間大きな力がかかり
更に悪化したのが容易に理解できたのです。

「痛めていた左足だけでなく、頼りにしていた右足までも・・・」
両足負傷という致命的な負傷ではあったものの、昨日は多忙な
日曜日だがら、船頭は一人でも多い方がいい。早退するわけにも
いかず、痛みを必死で堪えながら2度目の操船をおこなったのです。

さて、話を今日に戻して、この両足負傷という泣きたいぐらいの
厳しい状態で、この「南よりの風」と呼ばれる向かい風に対峙する
ことになった私。しかも、最初の持ち場は、最も重要な持ち場
となる「竿さし」。舟の一番前部の舳先から、竿に体を預け、
その反り返った舟板を走って降りる動作を繰り返す仕事で、
脚力の押し出し力がすべてともいえる持ち場。

「こんな日に、このような足の状態で・・・」さすがに気弱に
なりかけそうな気持を「痛いのは痛い、でも死ぬわけでもない」
「やる前から、あれやこれや心配して考えるのはよそう!」と
先安じの気持ちを振り払い、自らを鼓舞したのです。

結果は、弱々しい走り方ではあったと思いますが、向かってくる
強い風の中を、懸命に竹竿で押し返しながら、舟を前方に進め、
難所も切り抜け、何とか持ち場の仕事の責任を
果たすことができたと思います。

身体的には、足に体重がかかる毎に痛みが走るという状態でしたが
乗船して下さっているお客様には関係のないこと。

痛い顔など見せるわけにはいきません。

極めてポーカーフェイスで、快適な雰囲気の中で、船旅を
楽しんでもらわないとプロとして恥です。

楽しい会話のキャッチボールをお客様と繰り広げ、
いつもと変わらない、舟下りを演出することができました。

保津川伝統といわれる‘川根性’が少し身近に感じられました。

嵐山に舟が着くと
「今日は真正面から風が吹いて、本当に涼しい気持ちのいい川下りだった」
「船頭さんのお話、とても分かりやすくて楽しかったです」
「この夏一番の思い出になりました」
などと、うれしい感想を聞かせて下さいました。

家に帰ると早速、湿布だらけ・・・なのですが、
妙にすっーと貼り心地がよく、患部に沁みこんできます。
これはきっと湿布だけの効果ではない・・・そう感じる私なのです。