創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

「わたしなりの枕草子」#330

2012-02-28 07:33:43 | 読書
【本文】
成信の中将は②
 つとめて、例の廂に、人の物言ふを聞けば、「雨いみじう降る折に来たる人なむ、あはれなる。日(ひ)来(ごろ)、おぼつかなく、つらき事もありとも、さて濡れて来たらむは、憂き事もみな忘れぬべし」
とは、などて言ふにかあらむ。
 さあらむを。夜べも、昨日の夜も、そがあなたの夜も、すべて、この頃うちしきり見ゆる人の、今夜(こよひ)いみじからむ雨に障らで来たらむは、「なほ、『一夜(ひとよ)もへだてじ』と思ふなめり」と、あはれになりなむ。
 さらで、日(ひ)来(ごろ)も見ず、おぼつかなくて過ぐさむ人の、かかるをりにしも来むは、「さらに心ざしのあるにはせじ」とこそ、おぼゆれ。 人の、心々なるものなればにや。もの見知り、思ひ知りたる女の、「心あり」と見ゆるなどを語らひて、あまた行く所もあり、もとよりのよすがなどもあれば、しげくも見えぬを、「『なほ、さるいみじかりし折に来たりし」など、人にも語り継がせ、褒(ほ)められむと思ふ、人のしわざにや。
 それも、無(む)下(げ)に心ざしなからむには、げに、何しにかは、作り事にても、「見えむ」とも思はむ。されど、雨の降る時に、ただむつかしう、「今朝まで晴れ晴れしかりつる空」ともおぼえず、憎くて、いみじき細殿、「めでたき所」ともおぼえず。まいて、いとさらぬ家などは、「疾(と)く降りやみねかし」とこそおぼゆれ、をかしき事、あはれなる事もなきものを……。
 さて、月の明かきはしも、過ぎにし方、行く末まで、思ひ残さるることなく、心もあくがれ、めでたくあはれなること、たぐひなくおぼゆ。それに来たらむ人は、「十日、二十日、一月もしは一(ひと)年(とせ)も、まいて七、八年ありて、思ひ出でたらむは、いみじうをかし」とおぼえて、得あるまじうわりなきところ、人目つつむべきやうありとも、かならず立ちながらも、ものいひて帰し、また、とまるべからむは、とどめなどもしつべし。

【読書ノート】
 日(ひ)来(ごろ)=何日間も。おぼつかなく=音沙汰なく。
 などて=どうして。
 兵部(ひやうぶ)が自慢げに話しているのを聞いて、清少納言は反論します。次々と随想が広がっていきます。
 さあらむを=雨の夜の訪れでも。そがあなたの夜も=一昨々日の夜。
 おぼゆれ=(私は)思う。兵部(ひやうぶ)に対する非難は強烈です。それは、成信の中将への好意の裏返しでもあるわけです。清少納言の激しい気性が感じ取れます。
 心々=人それぞれの気持。語らひて=ねんごろになって。もとよりの=もともと。よすが=縁。本妻。褒(ほ)められむと思ふ=主語は男。しわざ=行為。
 げに=なるほど。何しにか=何のために。「見えむ」=会おうと(少し兵部(ひやうぶ)のことを認めて)。むつかし=うっとうしい。不快である。されど=しかし。細殿でさえ、雨降りはよいと思えない。「雨が早く止めばいいのに」とばかり気になって、雨の日は風情がない。(だから、雨の日に訪ねてきた男に誠意を感じることはない)→萩谷朴校注。
「をかしき事、あはれなる事もなきものを」が次の文に続くとする口語訳もあります。「別に趣きあることも、しみじみとあわれなこともない自分だけれど、そんな身の上でも」→石田穣治訳注。ちょっと違うなあ。
さて=話を転換します。あくがれ=あらぬ方にさ迷い。あるまじうわりなきところ=とんでもない無理な場所。やう=理由。かならず=ぜひ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿