「五百年、長いね」
僕は言った。
「長い……」
女はしばらく黙った。
「多分、あなたは間違ってる。私たちの世界に時間はない。五百年も一瞬も同じです。本当はあなた達の世界にも時間はないの。時間は錯覚です。私とあなたは同じところにいます。例えば、あそこ」
木の葉が一枚風に舞い、庫裡の方へ流れた。
「お互い見えない、だけ」
「見えない……」
「色即是空。同じ世界にいます。私たちはあなた達の隣にいます。でも、私達は百億集まっても重さは0。でも、それも、見かけがちがうだけ」
「僕は死ぬよ」
木の葉を追いながら、僕は言った。
「私たちは死なない。でも、それも同じこと。私たちは一度死んだから」
「また、こちらの世界で生まれるの?」
「そうです。私は五百年前に死んだ。すなわち、不死になった。だから、もう死ねない。次は、生まれるだけ」
「輪廻転生」
「少し違う。こちらの私はそのまんまなの。平成の今も、私があなたの世界にいると思う」
「分からない」
「ふふっ」
と、女は笑った。
「色即是空。空即是色。あなたの世界も私の世界も同じ。知らないだけ」
木の葉は、庫裡の前で止まった。庫裡の引き戸がゆっくりと開いた。
中に入ると、老人が一人座っていた。多分、翁様だろう。
「君も入れよ。姿が見たい」
女は戸口で笑った。やがて笑い声は闇の中を遠ざかっていった。鈴の鳴るような声を残して。
「早くそこを出ないと、戸が閉まるよ。閉まったら、二度と出られないわ」
半分ほど閉まった戸から、僕は飛び出した。笑い声は、本堂の方に向かっていた。振り向くと、庫裡の戸が閉じるのが見えた。
僕は言った。
「長い……」
女はしばらく黙った。
「多分、あなたは間違ってる。私たちの世界に時間はない。五百年も一瞬も同じです。本当はあなた達の世界にも時間はないの。時間は錯覚です。私とあなたは同じところにいます。例えば、あそこ」
木の葉が一枚風に舞い、庫裡の方へ流れた。
「お互い見えない、だけ」
「見えない……」
「色即是空。同じ世界にいます。私たちはあなた達の隣にいます。でも、私達は百億集まっても重さは0。でも、それも、見かけがちがうだけ」
「僕は死ぬよ」
木の葉を追いながら、僕は言った。
「私たちは死なない。でも、それも同じこと。私たちは一度死んだから」
「また、こちらの世界で生まれるの?」
「そうです。私は五百年前に死んだ。すなわち、不死になった。だから、もう死ねない。次は、生まれるだけ」
「輪廻転生」
「少し違う。こちらの私はそのまんまなの。平成の今も、私があなたの世界にいると思う」
「分からない」
「ふふっ」
と、女は笑った。
「色即是空。空即是色。あなたの世界も私の世界も同じ。知らないだけ」
木の葉は、庫裡の前で止まった。庫裡の引き戸がゆっくりと開いた。
中に入ると、老人が一人座っていた。多分、翁様だろう。
「君も入れよ。姿が見たい」
女は戸口で笑った。やがて笑い声は闇の中を遠ざかっていった。鈴の鳴るような声を残して。
「早くそこを出ないと、戸が閉まるよ。閉まったら、二度と出られないわ」
半分ほど閉まった戸から、僕は飛び出した。笑い声は、本堂の方に向かっていた。振り向くと、庫裡の戸が閉じるのが見えた。
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