創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

連載小説「Q」13

2020-04-21 06:51:54 | 小説
連載小説「Q」13
団地内は東西に三本の道が通っているから、真ん中の道を、インターホンを押しながら、Uターンして帰ろう。
三本目の道は昼飯を取ってからにしよう。
「スーパーマーケットにフードコートがあった」
団地まで引き返すと、団地の端に空き地を挟んで家があるのに気づいた。
通り過ぎたはずだが気づかなかった。
他の家に比べて敷地が半分ぐらいしかなかった。三十坪ほどだろう。
その家のインターホーンはまだ押していない。
 ――はい
返事があった。
――S社から来ました
――少々お待ちください
光一はここに来るために暑い最中、歩いてきたのだと思った。
表札には田代順平とあった。
連載小説「Q」#1-#10をまとめました。

連載小説「Q」12

2020-04-20 06:04:58 | 小説
連載小説「Q」12
振り返っても山並みが見えるから、盆地であることが分かる。
スマホで見ると背後に見えるのが二上山、右手に大和三山、正面が三輪山。
車一台がやっと通れる細い道の南側は田んぼと畑である。
川を隔てて北側の田んぼの向こうに疎らに農家が見える。
農家なら話を聞いてくれるかもしれない。
しかし、それはダメだ。会社の指示は明生団地である。
彼は、橋の欄干のそばに腰を下ろして、貴重なスポーツドリンクを飲んだ。
ただ汗になって吹き出すだけだけれども。
橋のそばに地蔵がいた。
綺麗な花が供えてある。
スマホで地蔵を探すと、それぞれの橋のたもとには地蔵がいるようだ。
旧農村なのだろう。
明生団地に地蔵はいない。
手を合わせると、地蔵が微笑んでいるように見えた。
一息ついたら、また、蝉の声が夕立のように落ちてきた。
ここにこうしていても埒があかない。
彼は引き返すことにした。
連載小説「Q」#1-#10をまとめました。

連載小説 読者

2020-04-19 15:24:54 | 小説
連載小説 読者

私はブログで連載小説をはじめた。
一日100名ほどの人が訪ねてくれる。
2年間コメントもつかない淋しいブログである。
また、新型コロナウイルスの大変な時に、呑気なもんだと思う人がいるかも知れない。
しかし、これは自分にとって大切なことだと思っている。
小さな世界を作っていくことが、この非常時に、とても大事な事だと、少なくとも私には。
そして100名の読者にとってもと、切に思う。

連載小説「Q」11

2020-04-19 06:54:10 | 小説
連載小説「Q」11
光一は何回インターホーンを押しただろう。
同じ家で二度押す勇気がなかった。
闖入者は次の家に向かって立ち去るしかなかった。
一人だけ老人に出会った。花に水をやっていた。
光一は、「焼け石に水」という言葉を思い出して、少し笑った。
美青年の笑顔は美しい。
川沿いの道路は団地の突き当たりまで四百メートルほど延びていた。
住宅の一番奥まで来てしまったようだ。
そこからは道が細くなり山並みが見える。
桜並木があり、木陰がありそうだ。
光一はその道を少し歩いてみようと思った。

連載小説「Q」#1~#10をまとめました。
連載小説「Q」#1-#10をまとめました。

連載小説「Q」10

2020-04-18 06:20:54 | 小説
連載小説「Q」10
団地の入り口にある鳥瞰図を見ると、川沿いの道路は真っ直ぐ東に延びている。
その道と並行して二本の道路がある。
団地を横切る百メートルほどの北南の道路が四本、九つのブロックの間にぎっしりと名前が書かれた家がある。
よく見ると名前が白いペンキで消された家が混じっている。
川に沿ってフェンスがはられている。川の向こうにも住宅団地がある。
フェンスに沿って五十センチほどの土手があるが、雑草に被われている。
花壇も無残な姿になっている。
光一はとにかく一軒一軒インターホンを押していこうと思った。
真夏の真昼、インターホンは一服の清涼剤を得るための唯一の手段でもあった。
とにかく冷房の効いた場所に入りたかった。
しかし、インターホンを押す度に期待は裏切られた。ほとんど応答がなかった。
たまに相手が出ても、名乗ると無言で切られた。

連載小説「Q」#1-#10をまとめました。


連載小説「Q」9

2020-04-17 06:39:32 | 小説
連載小説「Q」9
スーパーマーケットは意外と閑散としていた。
出会うのは老人ばかりだった。
自動販売機でスポーツドリンクを買った。
五百mlを一気に飲み干した。
もう一本は350mlにした。
これ以上荷物を増やしたくなかった。
スーパーマーケットの北側は道路になっており、道路に沿って川が流れていた。
歩いてきた川である。
国道を潜りまた現れた。
ここから名前が『かがり川』と変わるらしい。
橋の名前が『かがり橋』になっていた。
百メートルほど川に沿って歩道を歩けば閑静な住宅団地に入る。
目指す明生(めいせい)団地は、スーパーマーケットの巨大な影に隠れるように肩を寄せ合っていた。

連載小説「Q」8

2020-04-16 06:48:42 | 小説
連載小説「Q」8
大和八木駅で乗り換えて二つ目の笠縫駅で降りた。
無人駅だった。
都心まで一時間半の通勤圏とあるが、この時間は誰も乗り降りするものはなかった。
自動改札をぬけると、蝉の声が夕立のように落ちてきた。
スマホで道順をチェックする。
川に沿った細い道の方が近そうだ。
だが、簡易舗装の道は、キャリーバッグを転がすのに適していない。
鞄と一緒に運ぶのは難儀だった。
鞄を肩にかけてキャリーバッグを転がすと、全身から汗が噴き出した。
汗はすぐに乾き塩になった。
駅前にあった自販機で水を買うべきだったと後悔したが遅かった。
墓場の向こうが国道らしい。
竹藪の横をぬけると国道を挟んで巨大なスーパーマーケットの看板が見えた。
あそこで水を買おう。
しかし、GPSに記録が残るから長居は出来ない。昼食には早すぎる。


連載小説「Q」7

2020-04-15 06:53:49 | 小説
連載小説「Q」7
ビルの谷間を十分程歩いて、地下に潜れば、大阪駅に出る。
人が固まりになって動いている。
まるで蟻の集団だ。
これでも在宅のサラリーマンが増えて、通勤客は去年より一割は減ったと言う。
環状線に乗りJR鶴橋で近鉄の鶴橋駅へ乗り換える。
ここもまだ都心へ進む通勤ラッシュは終わっていないが、鶴橋駅から出て行く電車は、ガラガラだ。
夏休みだから学生もほとんどいない。
冷房がよく効いている車内は快適だった。
彼は遠足にでも行く気分で少しずつ田んぼが増えていく車窓を眺めていた。
やがて電車がトンネルをぬけると、奈良県である。

楽天ブックス限定お買いものパンダしおり

2020-04-14 13:54:53 | 読書

新型コロナウイルスの為遅れていた本が、やっと「楽天ブックス」から送られてきました。
嬉しいのは、「しおり」三枚です。
近頃の本は、糸栞がないのが当たり前のようです。
この栞はありがたいです。
本はまだ読んでませんが、嬉しくて紹介します。