散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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男子の本懐/なだいなだ/底の浅いウソ/仏罰

2013-06-12 07:35:23 | 日記
時節柄、城山三郎の『男子の本懐』を読みたくて、3週間ほど前に三省堂に寄った。
タッチパネル検索の表示は、「在庫ナシ、電子書籍のみ」というものだった。

時代だなぁ、と帰宅してぼやいていたところ、この月曜日に家人から kindle 贈呈あり。
「父の日」の前倒しだそうだが、「父」と呼ばれる筋合いのない人物の配慮が透けて見えている。

ともかくありがとう。
さっそく669円で『男子の本懐』をダウンロードし、昨日仕事の行き帰りに電車内で読みふけった。
これはいいよ、紙ベースで読むより読みやすい。ハイライトやメモの機能があるのも、書き込み魔の僕にはありがたい。
紙の書籍をなくすわけにはいかないが、これはこれで確かに良い。
せっかくなら、視覚障害への対応を充実するともっと良いのに。

読み終えたらハイライトを一覧にしてみるとして、とりあえず面白かったこと。
大蔵省で新米のくせに上司に噛みつき、転々と左遷される若き日の浜口雄幸。
その足跡が「山形にわずかの期間いて、次は松江」だって。
それから東京をはさんで、「名古屋から、さらに四国松山」・・・
僕に縁のある土地ばかりだ。

僕は逆に松江から山形へ、山形に一年だけいて、次が名古屋だった。
浜口は松山を経て熊本へ。ここは陸軍幼年学校に学んだわが父の第二の故郷。

四国は高知出身の硬骨漢、ライオンと渾名された浜口雄幸が、にわかに親しく感じられる。

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なだいなださんが亡くなったんだね。
昨日の天声人語で知った。

北杜夫の追悼文を一流の筆致で寄稿しておられたのが、つい先日のことのようだが。

昭和4年生まれ、麻布中学から仙台の幼年学校へ。
戦後麻布に復学し、慶応の医学部へ進んで精神科医となる。
久里浜療養所でアルコール依存症の臨床に携わり、「行軍」療法を編み出すなどその世界で知る人は知っている。もちろん本名、堀内秀(しげる)医師としてだ。

しかし、何といっても彼の真骨頂は物書きとしてのそれにある。
北杜夫の才能に触れたこともあり、早くから小説家としてよりもエッセイストとして自己規定した節がある。仏文学への傾倒と仏留学も、エセーの伝統に触れる機会を与えただろう。
重要なことを、平易な語り口で、決まった結論へ誘導するのでなく自問しながら書いていく。
あるいは、書きながら考えていく。

産婆法(問答法)といえばソクラテスだが、なださんの論じ方・書き方は産婆法そのものだ。私的に非常に影響されたし、おかげで自分の何かが変わったと思う。(いまWikiをみたら、なださんのお母さんは助産婦 ー 産婆さんだったんだって!)
数多の著書の中でこの観点から印象深いのは、
『権威と権力 ~ 言うことを聞かせる論理 聞く論理』(岩波新書)だろうか。

もうひとつ、『クレージー・ドクターの回想』は職業柄もあって面白かった。中に出てくる「金ケリお富」の逸話は、涙なしには読めない。本当に温かい人だった。

たぶん僕は、堀内氏のような精神科医、なださんのような物書きになりたかったのだ。
お目にかかってみたかったな。

カート・ヴォネガットの訃報に触れたときに似た、静かな寂しさがある。
頑張らなくちゃ!

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プロ野球の「飛ぶボール」の件、「なんで今頃発表を」と与田剛氏のコメントだが、僕はむしろ「なんでこれまでウソを」の方を問題にしたい。DV殺人未遂事件の神奈川県警にせよ、東電にせよ、早晩バレるに決まっているその場しのぎをどうしてするんだろうか。

昔の話になるが、プロヒューモ事件で英国の政治家が指弾されたのは、買春や機密漏洩の事実そのものよりも、これに関して議会で偽証したことについてだったと聞いたことがある。

先日アベベの指輪の件で書いたように、個の日本人のモラルの高さは世界でも一級であるのに、組織人としての僕らの行動様式はどこか根本的に間違っている。

どこをどうしたら良いのだろう。同種のことはまだまだ続くし、そうである限り僕らは公的な機関を全く信用することができないのだ。

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数日前の連載小説から。

「自ら縊(くび)れるようなことをしでかせば、どれほど恐ろしい仏罰が下るか、白円がよくよく言い聞かせましたから、もうその気遣いはございませんでしょう」
 直弥が思わず眉をひそめたのを見てとったのか、円也和尚はかすかに苦笑した。
「伊吉には、子供を脅すようにしないと話が通じないのですよ」

この件、いずれあらためて。