2016年12月22日(木)
「へええ」「ほおお」という話だが、まだ続きがある。今度はどうですか?
服装の違いや写真の古さ新しさを修正のうえ提示されたとして、さあ同じと見るか違うと見るか。右はもちろんダルビッシュ、左は・・・誰でも知ってる小説家とだけ言っておく(正解は末尾)。これがその夜、プーチン氏らの写真と並んで講演スライドの一枚を飾ったのだ。一日の仕事を終えて集まったM市の医師らを居眠りさせないためには、真に有効な工夫。インターネット上に元ネタがあることと想像は付くが、忙しい中でそうした素材を目ざとく見つけて拾ってくる片山氏の茶目っ気とサービス精神に一驚する。そして同氏が確実な根拠に基づいて断言した通り、今冬のノロウィルス感染症は空前の広がりを見せつつある。上記の二人をも別人と弁別する(?)精緻な免疫系の裏をかいての跳梁跋扈である。
僕は感染症や小児科臨床の詳しいことはわからないので、専門家諸氏との質疑応答を頭上に聞き流していたが、ふと思いついたことがあって手を挙げた。「ノロウィルス感染症は人類史の中で古くからあったのですか?それとも比較的最近出現したものでしょうか?」臨床には直接関係ない事柄だけに気が引けるが、ついつい歴史の方角に頭が動くのは抑えがたい性である。また、この演者なら答えに窮するはずがないと思ったのでもあるが、反応は予測を超えていた。氏は大きく頷いて手元のノートパソコンを操作し、「今日は入門編のつもりだったので・・・」と言い訳らしきことを言いも終わらぬうちに目当てのスライドにたどり着き、すぐさま込み入った樹形図を示してみせた。遺伝子の多型性パターンから進化のタイムコースを推定する方法論が、今では多くの領域で日常的に活用されている。それによれば今から390~570年ほど前とおっしゃったか、ともかくここ4~500年という最近に出現したものと考えられるのだそうだ。それだとコロンブス/マゼラン以後の話だから、「地球上のどこで」という推測は難しかろう。
案の定で、その代り氏は面白いことを教えてくれた。ロタとノロは似たところがあるが、世界的な拡散のスピードはかなり違っており、ノロがあっという間に拡がるのに対してロタはずっとゆっくりしている。ここでのキーワードは「発症年齢」と「飛行機」だ。ノロは大人も子どもも発症するが、ロタは5歳以下の子どもにほぼ限られている。子どもがノロやロタに罹れば、よほどの事情がない限り親は子どもの旅行を中止/延期するだろう。しかし大人がノロに罹った場合、少々不調でも旅を強行することがままある。かくしてあっという間に新しい株が世界に拡がるというのである。聞いていて「梅毒世界一周物語」という小ネタを思い出したが、これは秘蔵だからここには書かない。
拍手の中を退室する演者が、通りすがりに僕を見て「御質問ありがとうございました」と声をかけてくれた。聴衆のことまでよく見て覚えている、大したものだとトドメの驚きである。
帰宅後にさっそく調べてみて、これはまた別のビックリ。プーチン氏の写真は、何と新聞記事が元ネタなのだ。
The Moscow Times はモスクワで発行されている英字紙とある。さぞ反響を呼んだに違いないが、 書いた記者はその後無事に暮らしているだろうかと少なからず心配になった。
最後に種明かし、ダルビッシュ有そっくりのりりしい書生は、若き日の川端康成である。なるほどこれでは雪国でも伊豆でも艶福が付いて回ったことだろう。
Ω