2018年9月12日(水)
先の話、腹を抱えて笑いながら、とんでもない母親だとばかり初めは思った。違うよね、分かってなかったのだ。
少し足りないジュファーに母親は固く口止めするが、効き目ははなはだ疑わしい。事実、母親が袋の中身を入れ替えたと知るが早いか、ジュファーは「裁判官さまに訴える」と騒ぎ出す。これこそ母子がいちばん恐れねばならないことで、金貨入手の仔細が裁判官に知れたらたちまち二人は監獄行き、金貨は没収で裁判官が私腹を肥やすのが相場というもの。実際、ジュファーの訴えを聞いた裁判官の質問は「いったい、いつ金貨を手に入れたのだ?」、つまり金貨を盗まれた経緯ではなく、入手した経路だった。
これを回避する母親の妙案が「乾し葡萄と乾し無花果」のトリック、息子の頭がおかしくて証言など信用できないと裁判官が思いこめば、今後口をすべらせたところで疑われる気遣いはない。頃合いを見計らって息子を病院から連れ戻し、金貨はめでたく母子のもの。山賊からくすねたお宝を、より大きな盗っ人から守る最高の工夫がこれであったに違いない。
偉そうに言ったが、そうと気づいたのは昨日転記していた時である。それまでは単純に「お宝を前にしては母も子もなし」という強欲我欲の話だと思っていた。「そうじゃないの?」と食い下がる向きのために、ひとつ前の物語を紹介しよう。いずこも変わらぬ母心と、大愚にして大賢たるジュファーの面目がよく現れている。
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食べろよ、僕の衣服!
ジュファーは何しろ大馬鹿者だったから、誰かに招待されるとか、どうぞお出かけくださいませんか、などと言われたためしがなかった。あるとき、残り物にでも預かれないだろうか、と農場へ出かけてみたが、みすぼらしいその身なりを見ただけで、人びとは番犬の鎖を解いてけしかけた。そこで母親は、彼にすばらしいコートとズボンとビロードのチョッキを買ってやることにした。農場の管理人にも負けない服装で、ジュファーは例の農場へ乗りこんだ。じつに丁重に迎え入れられ、人びとと同じ食卓に招かれて、おまけにお世辞まで言われた。ご馳走が出されると、ジュファーは片手でそれらを口に運び、残る手で大小のポケットや帽子のなかにまで詰めこみながら、言った。「食べろよ、食べろよ、ぼくの衣服。招かれたのはおまえたちだぞ、ぼくではなくて!」
(前掲書 P.297-8)
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