2023年6月1日(木)
A子さん、先日は「文藝春秋」三月特別号を御恵贈くださり、ありがとうございました。第168回芥川賞を受賞した二作品について、A子さん御自身の評価は完全に別れたとのこと、一方はそれなりに面白く読み入ったのに対して、他方はちっとも良さが分からなかったのでしたね。
私も読んでみました。
松江出張の間は仕事と現地を楽しむことに余念なく、帰京後に少し落ち着いてから分厚い雑誌のその部分だけ切り抜き、電車移動の間に読んだのです。その結果は愉快なことにA子さんとまったく同感、一方は文章に粗さが垣間見えるものの、触発の火花を随所に感じつつ読み進め読み終えたのに対して、他方は楽しいとも面白いとも少しも思えず、10ページもいかないうちにいっそ投げ出したくなったほどでした!
錚々たる選考委員諸氏が一致して高い評価を与えていることを思えば、A子さんも私もきっと文学を解さぬ凡愚の輩なんでしょうね。それで結構、たくさんです。偉い人々が何とおっしゃろうと、つまらないものをつまらないと言い放つ至高の権利を私たちはもっているのですから。
ただ、A子さんは二作のどちらが面白く、どちらがつまらないかをおっしゃいませんでしたね。だから、ひょっとすると私は貴女と同じ感想を抱いたのではなく、それどころか正反対だったのかもしれません。だとしたら、これまた愉快なことでしょう。
照合するのはお目にかかってのお楽しみとして、一つ付言を。一方の作品は南東北を舞台にしており、それを忠実に反映する福島あたりの方言の会話が私にはことのほか懐かしいのでした。主人公の離婚した相手が「星」という姓になっていましたが、この洒落た姓の人々は福島に断然多いのです。そのあたりも作品の写実性を裏書きするものと感じられました。
とはいえ、そのことと作品全体の面白さとは別の問題、さてどちらがどちらだったのか、せーので明かしてみるとしましょう!
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