2022年8月22日(月)
勝ちあがるチームの校歌を繰り返し聞くうちに、何となく覚えてしまうことがある。1978(昭和53)年センバツ優勝の浜松商業がその初めだった。
朝日直刺(たださ)す 富士の秀峰(ほつみね)
夕陽かゞよふ 浜名淡海(あわうみ)
曳くや霞の 曳馬の野辺に
曳くや霞の 曳馬の野辺に
緑芽(みどり)伸び行く 若松我等
古風だが、いたずらに力むところのない和やかな歌で、とりわけ「ひくやかすみの/ひくまののべに」とある「ひく」の韻律に心「ひかれ」た。
対照的に大いに勇ましくて印象に残るのが熊本工業の校歌:
山は大阿蘇 地軸揺りて
大空焦がす 久遠の神火
川は白川 昼夜分かたず
清流滔々 巨海へ放る
大なり山河 我等の揺籃
大空焦がす 久遠の神火
川は白川 昼夜分かたず
清流滔々 巨海へ放る
大なり山河 我等の揺籃
インターネット知恵袋に「ひらがなで書いていただけませんか? 難しい漢字ばかりなので困ってます」という書き込みがあったが、今どき無理もないか。親切で正確なベストアンサーが下記:
やまはおおあそ ちじくゆすりて
おおぞらこがす くおんのしんか
かわはしらかわ ちゅうやわかたず
せいりゅうとうとう きょかいへいたる
だいなりさんが われらのようらん
質問者はさすがに卒業生ではないはずだから、当方と同じく何らかの事情で関心を抱いたのだろう。
熊本工業といえば1996(平成8)年の「奇跡のバックホーム」で敵役を演じた往年の強豪・松山商業、こちらは同郷人の心得というもので…
石鎚の山 伊予の海
金亀城頭 春深く
緑の旗や 商神の
もすそに匂ふ 百千草
秋万頃の 波打てば
空に黄金の響きあり
石鎚(いしづち)山を、ここでは石鎚(せきてつ)と読む。金亀(きんき)城は松山城の愛称で、姫路城を白鷺城、広島城を鯉(り)城と呼ぶが如し。
「あきばんけいの/なみうてば、そらにこがねの/ひびきあり」と言葉もカッコよく、リズムに乗って朗らかな歌である。
そして今回、仙台育英が準々決勝を制したとき、たまたまTVを点けていて「おや」と思ったのがその冒頭。
南冥遙か 天翔る
鴻鵠棲みし青葉城
ああ松島や 千賀の浦
天の恵める青葉郷
ここに根ざしし 育英の
我が学舎に 栄光あれ
土地の名勝を読み込むのは常道、「ああ松島や千賀の浦」はメロディーに乗ってよく伸びる。ちなみに二番の歌詞が興味深い。
平和の光 民主国
護憲の教え あきらかに
我が日の本の 国のはな
学びの園に咲き匂う
斯の道守る 育英の
我が学舎に 栄光あれ
「民主」や「護憲」を戦後のものと受けとるなら変哲もないが、「我が日の本の 国のはな」には違う空気がある。実際「加藤利吉作詞/服部正作曲、昭和5年2月22日制定」とあり、その経緯に興味がもたれる。
それはさておき「南冥」と聞いては、連想が働かずにいない。そこへいく前に三番は「見よ北辰は 燦として/理想の彼岸に 輝けり」の歌い出しで、「北辰」が一番の「南冥」と対句を為す。
北辰は北極星の謂であり、古代中国の宇宙観においてひときわ貴いものと見なされた。
Ω