包丁の其の先ほどの寒さかな
その人は一つの咳の様に消えた
寂かなりしみじみと見る古暦
備えあり愁いも在りて歳の暮
踏まないで忘れな草を踏まないで
夕焼けて婆の影踏む子等の影
照れ臭し少し長めの半ズボン
なでしこの様な少女に径問われ
勝った子が負けた子つつく運動会
会得せり粧わぬ山と粧ふ山
悠久の時を偲びて墓洗ふ
破荷似合う男の背中かな
立冬や下り続ける男坂
包丁の其の先ほどの寒さかな
その人は一つの咳の様に消えた
寂かなりしみじみと見る古暦
備えあり愁いも在りて歳の暮
踏まないで忘れな草を踏まないで
夕焼けて婆の影踏む子等の影
照れ臭し少し長めの半ズボン
なでしこの様な少女に径問われ
勝った子が負けた子つつく運動会
会得せり粧わぬ山と粧ふ山
悠久の時を偲びて墓洗ふ
破荷似合う男の背中かな
立冬や下り続ける男坂
春嵐私情の乱れそのままに
咳一つ呼吸器外科の吹き溜り
万緑や洒脱な言葉見付からず
行きずりのマスクの人に会釈され
冬帽子後ろ手に持ちさて一人
柳刃の切先しかと烏賊を引く
比ぶれば君のみむねや隙間風
日傘クルクル十七八の通りけり
馬鹿言ってんじゃないよ四月馬鹿
投げやりに焼いた秋刀魚の旨さかな
と云って貴方は蝉時雨に消へた
カルタゴの女奴隷の瞳涼し
剥げやすい化粧のように夏果つる
墓参り身を知る雨に身をゆだね
菜の花や見つかるようにかくれんぼ
曇天下日傘時々にして雨
秋刀魚裂く包丁で道教えられ
木枯の公園を斜めによぎる
花の人指切りをしたままの女
夏大根引く力なし山は雨
神無月賽銭箱を覗きけり
草摘める女の背の丸さかな
蛍の光らぬ方へ誘われ
彼岸花忘れることは罪ですか
薔薇崩る身を知る雨に身を委ね
カンナ燃ゆれど切に待ちたることもなし
忠魂碑覆う万朶の櫻かな
さんざめく人込みに入り春を聴く
万緑や跡形も無し負の記憶
径問へば麦秋の人口ごもり
来し方の夢のかけらや冬花火
永らへて死は一瞬の蝉時雨
光と影と山茶花の白である
風誘う白き蹴出しや秋の果て
陰毛の白きもの取れ冬となる
かわたれの毛虫のごとく生きてみるか
越前の蟹身じろぎて冬となる
夏座敷柱鏡の山揺るる
肌に添ふ指白々と露寒し
日に透けし紅葉かくあり目交に
桃にみる球体の無限の羅列
八つ口に春の名残の風を入れ
芭蕉忌やチンドン屋との鉢合わせ
白日傘一瞥もせず通りけり
咳込みし女の嘘を知っている
真っ直ぐに立ってカンナの日暮かな
アッパッパー娘似合って母となる
青丹よし奈良や生駒の木下闇
通りゃんせ俺とお前の隙間風
煮凝りの揺すれて遠き月日かな
その蜘蛛は只揺れながら孤独だった
月おぼろ娘の嫁ぐ町を過ぐ
尊厳死協会前のくしゃみかな
焼場裏蜜柑が青く滲んでた
菜の花にそっと沈んでみたりして
砂日傘健康だった私の心
りんご剥くお前は今も幸せか
霙るるもこの道を行く他は無し
立秋の石に座し疲れて笑う
哀しきはその噴水のスパイラル
秘め事を秘めて苦しき大暑かな
秋は白き祈りと誰かが言った
月朧貴女の居ない窓の群
花吹雪ここから二人で逃げようか
その猫の上に小さくリラが散った
夏も終わりねと頬杖を解く女
栗一列に並べる面白くない
ひらひらと花びらホームレスの上
牛蒡引く女の眉の太さかな
終戦日記憶の中に音は無し
鳩の目に墨入れし芸妓と三日かな
曇天下向日葵時々にして雨
後朝の女の咳の目覚かな
禅僧の戯言を聞き春炬燵
好い人はタンポポ踏まず通ります
スーパーの桃尻の毛にそっと触れ
で在るからして向日葵は爆発する
万緑やこの地に生まれ此処に住む
死或いは絶望する一つの咳
犬と一人朽野に立つ山は雨
初雪や妻揺すぶれば片目あく
京四条祇園界隈雪女郎