梅雨霧の谷といふ谷埋めつくす 章子
落し文秘めごと抱き老いるなり
炎天下鳶職人の幼顔 鼓夢
甚平とゆっくり歩む白き傘
落し文折り目きっちりにて候 炎火
縄文の土偶の光り夏の夜話
手花火や囲む人の目みなやさし 歩智
風鈴の吊り処きく風もなし
青葉風入れて戸棚の大掃除 洋子
前むきに生きよ生きよと落し文
泰山木の白き玉割る金の蕊 薪
片足は小室山に掛けて海の虹
念力を昆布茶にまぜて土曜凪 正太
バス停の風のすきまの祭笛
風鈴を日がな一日眺めおり 遊石
夕焼けて婆の影踏む子等の影
洗車する水が呼ぶのかトンボきた 空白
くちなしが土質検査で切り取られ
閉じておく明日への扉落し文 雲水
ひぐらしのその哀しさを愛しむ