(ゆうせきし よつゆことほぎ たびだちぬ)
遊石さんはどんな人生を送ったのだろうか。彼が話してくれた様々なエピソードから推測すると、彼ほど幸せな人生を送った人は、珍しいと思う。性格は豪放磊落で、お孫さんが弔辞で話したように勝手でわがままなところも確かにあったが、面倒見が良く彼の心の底には優しさと思いやりが流れていたことを、私たち俳句仲間やテニス仲間は、皆知っていたはずだ。
だから私も、一度も彼に腹を立てたことがなかった。たぶん、御家族も同じ思いだったのではないだろうか。しかし晩年の彼は、食道がんの手術後から、満足に食べられなくなり、手足がしびれ、テニスができなくなって無念だったに違いない。残念ながら、私たちも遠くから唯々見守ることしかできなかった。
今年の四月が、彼の最後の句会だったが、掲句の通り自然に感動し、自然を言祝ぐ次の辞世とも言える句を残している。
囀りを耳もとで聞く目覚かな 遊石
シャボン玉とびゆく空の青さかな
花びらの散り初むなかに犬ねむる