この頃の私は、学生の身分だからお金が無い、親の脛を齧っている身なのだから贅沢は出来ない。倹約倹約とばかりにひたすら思っていた物です。
学生時代の私の仕送りは月4万円(下宿&賄い費含む、電気代別料金も含む)でした。父曰く、「沢山持たせると贅沢になるから、必要経費以外の余った分で1月をやり繰りするように。」という事でした。実際に父は収入が多いという訳では無く、私は奨学金を申請して承認され、受給してもいました。しかし、これは学費の予備資金にして使わない様止められていました。金銭的に余裕が無ければアルバイトをすればよいのですが、こちらも又私は父の方から止められていました。アルバイトをして疲れると学業に励めないからという理由からでした。「学生は勉強が本分」が父の口癖で、アルバイトに精を出して学業がおろそかになっては本末転倒だというのです。また、アルバイトという物は結構疲れるものだと輸されました。父にすると所定の定額でやり繰りするように、という算段だった様です。お陰で、私の方はめったに衣類も買わず、時に買ってもバーゲン品、吊るしてある衣類、ワゴンに山になっている衣類から千円を目途に選び出して来る買い物でした。その為衣類は帰省した時に母とまとめ買いして、ある程度下備して置きました。こちらもやはりスーパーのバーゲン品でした。お洒落なんて気の利いた事は出来ません、が、それなりに一般常識的な出で立ちにはなっていました。(私見です)
そんな私ですから、ある日の店の店頭で洋梨が百円で売られているのに出会うと、これはと、この期を逃すまいと、気付いてよかったと内心喜びました。また、昨年に比べると割高だと少々気を削がれながら、2円の事だからと損をした気持ちでも思い切ってこの洋梨を1固購入するのでした。その後も、時折洋梨の特売は有るようになり、遂に昨年と同じ98円になると、待ってましたとばかりに私は洋梨を2個買うのでした。
安さに釣られて思わず出費したなぁと内心苦笑しながら、ほのぼのと『何だか洋梨って好きだわ。』と洋梨を手に取り思う私。味が好き、食感が好き。そんな事を考えながら、この年3度の購入が済んだ頃だったでしょうか、八百屋のおばさんもこの頃には特売になると洋梨を買って行くというケチな女子学生の顔を覚えたらしく、満足気に梨の袋を受け取って幸せそうな笑顔を顔に浮かべていただろう当時の私に、
「たまには定価で買って行ってね。」
と一言。胸にズンとくる言葉を私は掛けられたのでした。