Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 53

2019-09-18 15:09:22 | 日記

 この様に母の顔色が冴えない日が2、3日続いた。私はこの事を特に気に病む事無く過ごしていた。そしてこの間、真実は白日の下に晒されたのだという、公明正大で朗らかな気分の儘でいた。

 そんな私がその日外遊びから家に帰ると、またもや障子の前で待ち構えていたらしい父に捉まった

「やはりこの障子に穴を開けたのはお前だ。」

父がそう言うので、私はうんざり顔をした。

「そう言う事にしておこう。」

以下、父は言うのだ。

 そうしないとあれは出て行くというのだ。折角この家に嫁に来たのに、実家に帰ってもどうしようもないだろうに。あれだってあれの家族だって困るだけなのは目に見えている。それに私はあれの事を頼まれたのだ。向こうの母さんや兄さんに。

 父はそう言うと、私に

「なっ、この穴はお前が開けたんだよな。」

と再び言った。父は少々懇願めいた口調になっていた。しかし私は相変わらず無言で首を横に振り、事実は違うという意思表示をした。そんな私に父はううむと唸った。

 父は言を左右に振りだした。この穴を見てみろ、こう上手く障子の様な紙に、この様に丸く穴を開けられるものでは無い。この丸は真円とかいう物だそうだ、正円とか。なぁ、なかなか上手く丸く穿かれているだろう。こんな柔らかな紙にこうも綺麗に丸い形だ。おいそれとは誰にだってこうは出来ない物だ。さっき別の障子紙でしてみたが、私でもこうは奇麗な穴を開けられ無かった。感心したよ。等と父はこの目の前にある障子の穴を持て囃し始めた。

「どうだ、お前も1つお母さんに見習って、こういう綺麗な穴をここに空けてみないか。」

1つと言わず2つでもいいぞ。にこやかにこう父が言うので、私は黙って父の顔を見つめて首を横に振った。嫌な感じがした。

 そこで私は、かつての父の言葉を復唱して父に聞かせると、お父さんは私にそう言っていたじゃないかと文句を言った。それなのに、どうして今になって悪い事を自分に勧めるのかと父を詰った。

 「それはそれ、あの時はそれでよいと思っていたんだが、」

と、父は言うと、「あれが、自分に似ていない子のいる家にはいたくないというのだ。」「このままではあれは帰ってしまう。そうなるとあれだけでなくお前にとっても良くない事になるんだ。」「お父さんには分かる。」そんな事を言い出した。父の目は空を泳ぎ上の空の体であったが、その後何やら妙案を思い付いたと不思議な顔付になった。

 「まぁ、いいから、お前自分の指を嘗めてみろ。」

と父は言い出した。人差し指でいいからと父が言うので、私は言われるままに人差し指を嘗めた。すると父はその指を出して見せてみろと言う。私が自分の人差し指を口から出して父に見せると、父はこれでは足りないなと渋い顔をした。もう一度べろべろに指を嘗めて、いいからその儘父に指を見せてみろと言う。私は何思う所無く言われるままに唾液でべとべとにした人差し指を父に見せた。何時もならみっともない、行儀が悪いと父が言う、指を嘗め、人前に晒す行為だ。私は妙な気がしたが、父の言う事だからと素直に従った。

 すると、父は有無を言わせぬ勢いで私の人差指を手首ごと彼の手に掴むと、それっとばかりに障子の紙に持って行きぷすりとその場に突き刺した。あっという間もあればこそである。私は自分の指の刺さった障子に強い衝撃を受けた。衝撃の後、恐る恐る襖から指を抜き出すと、そこには小さな穴が開いていた。夢なら良かったのに、私は思ったが、現実には、私の目の前の襖の障子に私の指が開けた他の穴よりひと際小さな穴が確かに開いていた。私の心は一気に真っ暗な奈落の底に突き落とされた様で、ぶすぶすとした煤けた闇に覆われた心地がした。

「さぁ、これで良し。」

父は言った。「よくやった、これでお前も我が家の一員だ。」「父と母と子の3人家族だ。」等と労ったが、私は何もしていないのだ。障子に行ったのは父なのだ。私の手を掴み開けたのだ、この穴を。しかも私に勝手に開けたのだ。私は思った。

 この事が父の言動の矛盾を感じさせて、私は母だけでなく父さえもおかしな人物なのだと気が滅入った。

『こんな人達と家族だなんて…。』

私は項垂れて、酷く沈み込むと父と話等したく無かった。父は盛んにこれで良いのだと口走っていたが、私の方は気分の晴れようがなかった。


うの華 52

2019-09-18 14:42:12 | 日記

 あれ!?。私は驚いた。父の言っていた通り、その時の障子には穴が4個開いていたのだ。

幾つに見えるか、とか、数えてごらん、等と父が言うので、私は何だか自分が如何にも赤ちゃんねんねと馬鹿にされたような気がした。内心ムッとした。が、私は大仰に父の目の前に腕を差し出し、指で穴を1つ1つ指し示すと、1つ2つと数え、「4つだから4個。」とさも幼げに答えた。そして更にさも得意気に胸を張って微笑もうとした。が、私の顔は自慢顔にならず、やはり照れて苦笑いの顔になった。そして思わずぷっと吹き出して仕舞った。

 父はふんと言う感じで、やっぱりなぁと言った。お前知っていたんだろう。いちいち数えなくてもこのくらいの数なら見て分かっていたんだろう。そう言うと、

「お父さんだってお前くらいの歳には見るだけで分かっていた。」

等と言うので、私は内心それは父の負け惜しみじゃないかなと思った。『真実の分らない人が。』と口から出して呟きたくなった。がそれをぐっと堪えて無言でとり澄ましていた。そんな私の顔色や様子の変化を父も無言で観察していた。私達親子はここで暫く沈黙の時を過ごす事になった。

 そんな沈黙に耐えられなくなり、先ず口火を切ったのは私だった。

「お父さん、未だ障子に穴を開けたのは私だと思ってるの?。」

すると父は俯き加減で悪びれた顔付になった。まぁなぁと言うと父は私から視線を逸らした。彼は障子の穴を見詰め、手を伸べてそっと穴を撫でる様な仕草をして、「今はお前だと思っていないがなぁ…、」と言った。この時、父から初めて犯人がお前では無いという様な言葉を聞いたのだから、私は嬉しい驚きを覚えた。思わず顔がにっこりと笑った。

 「何だ、お父さんにだってきちんとした事が分かるんだね。」

と私が言った物だから、父の機嫌は頗る悪くなった。もうお前とは話をしないと言うと父は

「お前がこの穴を開けたんじゃないなら、この家にこんな穴を開ける人間は1人だけだ。」

と割合大きな声で明確に言うと、ふんとばかりに畳に仁王立ちした。 

 父は直ぐに身を翻すと廊下に向かい、台所に向かって「おい、おい、」と声を発しながら、母への呼びかけを続けて遠ざかって行った。父は居間から台所へと姿を消したのだ。その後は台所から「何ですか急に、」そんな母の声が聞こえていたが、居間にいた私にはその後の両親の話は殆ど聞こえて来なかった。

 この後父と母の間で一悶着あった事は確かだった。父は機嫌が悪くてピリピリしていたし、母ははっきりと顔色が悪くべそをかいていた。それでも、母がこの家を出て行くという事は無かった。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-09-18 14:35:36 | 日記
 
土筆(198)

 だから、本とにあの子に自分や他人のした事を押し付けると、本人は勿論、こうもの凄く怒ってね、こっちが後から冗談だって言っても全然受け付けなくて、それであの子は泣くわ喚くわで大騒ぎだ......
 

 穏やかな秋の日。まだ暑い日差しだけれど。