Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 59

2019-09-26 16:19:53 | 日記

 何だか訳も分からず暗い気分で、客が障子の一件が私のせいだというのだから、彼は多分父の知り合いなのだろうと私は考えた。程無く失礼な客から解放された私は廊下に出て、誰もいない台所に向かい、その後は家の中をあちこち見て回ったが、家の大人は皆家中には居ないようだった。私はもう居間には戻らなかった。あの客がまだそこにいたらと思うと、私は会いたくなかったのだ。私は縁側から台所、裏口に回ると降り口に腰かけて暫くその儘ぼーっとしていた。

 どの位経っただろうか、背後から母の声が聞こえたので私は振り返った。

「智ちゃん、そんな所で何してるの。」

母は微笑んでいたが、私が母を見上げてその顔をよくよく見ると、彼女は何だか歪な不自然な笑顔を作っていた。

「お母さんこそ、何だか顔が変だよ。」

私は言った。「居間に変な人が居たんでしょう?。」はたして母は、おやっと、思い当たった様子の顔をすると私の顔を見て、

「ええ、そう。お前も会ったの?。」

と聞いて来た。私がそうと頷くと、母はやはりねと、私の元気の無い様子に合点した。何だか私と同じような目に遭わされたらしい。

 が、嫌疑を掛けられた私と違う点は、母がこういった類の事件で場数を踏んだ大人であり、今回の障子の件の真犯人であった事だ。母は暗い顔で俯くと、ああ疲れたと呟いた。がっくりとした感じで体を屈めると、「一寸ごめんよ。」と私の座る横に腰を掛けた。私は母が来て降り口が狭くなった事と、この母のせいでああいった目に遭ったのだという気持ちが、母とこの儘ここで席を同じくする事を厭わせた。私は立ち上がって台所へ戻ろうとした。

「お前行くのかい?。」

居間に戻るのかと母が尋ねるので私はううんと否定すると、「水が飲みたくなったのだ。」と適当に理由をでっち上げて彼女の傍を離れようとした。居間に行かないのか、母はがっかりしたように言うと、気を取り直したように微笑んで言った。

「お前、居間に行って来てよ。」

「私はお茶を入れて来ますと言って来たんだよ。お前お母さんの代わりにあの人にお茶を出してきてくれないかなぁ。」

等と、母は悪戯っぽそうな笑みを浮かべて私に言った。勿論私は眉根に皺を寄せると憮然として母を見詰めた。