気落ちしていた私に向けて祖母が掛けた言葉中に、自分はただぼんやりはしているのでは無い、絶えず何かは考えている。そう受け取れる言い回しが有ると私が感じた事が私の癇に触れたのは確かだった。それで私も、祖母の気に障るだろうと予想しながらこの憂鬱は誰あろうあなたの息子のせいだと、鬱憤を抑えきれずに障子の件を祖母に言わしめてしまったのだろう。父と2人居間に残った私は、祖母の悲憤を思って少々反省した。彼女に問われる儘あからさまに真実を話した事を後悔した。
「お祖母ちゃん如何したんだろうな、変だよな。」
そんな沈んだ私の顔を見て、私の同意を求めるように父が言った。私は憂鬱な顔を父に向けて『変なのはあなた。』と内心叫んだ。変な事をするから真面な祖母や私が苦しむのだ。そう思った私は、父の言葉に同意出来ないと言う意志を表明して、頑として身じろぎもせずに父の顔を見上げた。その後は父が何を言おうと私は終始無言の儘だった。程無くして、祖父の「四郎、一寸こっちに来い。」という重たい言葉が掛かり、私は私が父と話さねばならないという切迫感が全く消えた事に安堵の溜息を洩らした。
私は祖母が、孫の私の事を単純に可哀そうだと思って父を叱ってくれたのだと思っていた。祖父も同様に私を憐れんでくれたのだ、それで父に意見してくれたのだと思っていた。が、祖母にすると、自分の子供が妙な事を行ったという事実が血続きの親である自分に反映して、世間一般から変な父と同類と見なされ、自分が妙な人物と見られる事になるという世間体を憚ったようだ。後日祖母は私にこの事を説明してくれた。
「遺伝という物があるからね。」
「身内は皆、世間様から同じように見られる物だからね。」
そう説明した祖母は、お前も家族の為に気を付けておくれねと、私に一応の釘を刺した。お前の方があの子より物の道理が分かるようだ、だから、あの子にもお前に合わせるように言って置く。祖母はそう言うと
「お前、お父さんが外で変な事をしないように見ていておくれね。」
と、幼い私に懇願したのだった。当時の私はその事を不思議とも何とも思わずにいた。唯、「うん、いいよ。お祖母ちゃん。」とのみ答えた。私は朗らかに明るい気分でいた。