Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 11

2019-07-08 09:45:13 | 日記

 帰宅した私は、その日の史君の不可解な言動について父に話した。特に住職さんの話を誰も聞かないという点について、酷く奇妙に感じていたので、本当はそうなのか?、何故私だけが聞かなければいけないのか、と訴えた。

 「良いお話なんでしょう?。」

何故誰も聞かないの?、そんな事を聞いてみる。史君にすると聞く人間の方が変だという感じだったのだと私が言うと。

「解せないなぁ。」

父も合点がいかないという顔付をした。そして暫く思案顔でいた。

「幾ら世の中が変わったとは言っても、お寺さんの話は皆聞く物なんだがなぁ。」

と父は言うと、その後もむっつりとして、あれこれと何故かの言葉を発する私の前で寡黙な儘、その手に新聞を引き寄せて座していたが、

「まぁちょっと話してみよう。」

そう言うと手に取った新聞を広げて、紙面に顔を埋めた。

 この時の私は父が住職さんと話をするものだとばかり思っていた。『そうだな、当の住職さんに話を聞けば、外の皆の状態がよく分かるだろう』。私は勝手にそう思うと、父の判断に『流石は父だ!。』と、『子供の私では思いつかなかった。』何時までもあれこれと1人で考えていた事だ、と感服していた。

 「もしかすると…。」

不意に新聞から顔を上げた父は呟いた。「あーめん、ソーメン、冷素麺かもな。」意外そうな言葉付きだった。

「事によるとそうかもしれない。」

そう言うと父は、自分を見詰めている私と目が合った。

「お前まだそこにいたのか、外に行って遊んで来い。」

それだけ言うと父は沈んだ様に瞳を伏せた。手に持っていた新聞に再び目を落とした様子だ。私は元気の無い父が心配になり、直ぐに外遊びに行く気になれなかった。父の様子が不安だったのだ。それでそのまま父の様子を黙って窺っていた。

 自分の時にもそんな者がいたなぁ。が、1人、か、2人だったなぁ…。それも…、そんな言葉を時折、沈思黙考していた父は独り言の様に漏らしていたが、暫くして、私の父を気遣う視線に気づいたらしい。ひょっと私に視線が定まると。

「お前まだそんな所にいたのか。」

ムッとした声音になった。父は如何にも不機嫌そうに私に再び外に遊びに行くよう命令した。「お父さんは未だ、お前に心配してもらうほど落ちぶれてはいないんだ。」そんな言葉も口にした。

 


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