「お母さんと、私は似てないと思うけど。」
私は不満気におばさんに反論した。この点については納得できない。否、したくなかった。するとおばさんは非常に驚いた顔をした。えっ!という具合だった。
「似て無いの?、あなた達。」
と言うとまじまじと私の顔を見詰めた。
おばさんは何やら考えている風だったが、くしゅんという顔付をして、冗談?と小声で私に訊いて来た。そこで私は全然と答えると、更に不機嫌そうな顔を彼女に向けた。するとおばさんはまた考え込んでいたが、
「もしかすると、鏡を見た事無いの?」
とか、家に智ちゃん用の鏡が無いんだ、等とぶつぶつ言っている。
今度は私の方が訳が分からず顔をしかめる番だった。
「鏡は毎日見てる。私の鏡は無いけど…。」
と、答えると、私はおばさんが何を言いたいのだろうと訝った。「一体おばさんは私に何が言いたいの?。」と訊いてみた。この私の問い掛けに、おばさんの方は、ははぁんと言うと、如何にも納得したという様子で自覚の方が無いんだね、と言った。
すると、
「滅多な事を言うもんじゃない。」
と、店の奥からこちらに向かってご主人が声を掛けて来た。
「お前、お向かいの坊ちゃんの事を忘れたのかい。」
「何でも言って、如何なったのか覚えてるだろうね。」
俯き加減で物を言うご主人の声は、下にこもった様な感じで通らないが、私達のいる場所までは十分に聞こえて来た。おばさんはちらっと顔を傾けてやや後方を向くと、後ろのご主人に無言で視線を投げ掛けていたが、やや間を置くと不満そうな顔付きでこちらに向き直った。
「誰でも言いたい事は言いたいよね。」
私に向かって、彼女は同意を求める様に不平そうに零した。彼女は嫌々をするような感じで腕を曲げると拳を握り、彼女の胸の前に持って来た。そして2、3回軽く前後に身を捩った。 そんな彼女の様子を、ご主人は離れた場所で俯いていても見逃さなかった。
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