と、手は目の上から頭、額など、そっと優しく触れて覆ってくれるような感じです。
こうやって自分を慈しむ雰囲気は、やはり父の物だと蛍さんは感じるのでした。
「眠いんならもう少し寝ているかい?」
父が言うので、蛍さんはうんと答えます。そうすると、頭を抱えた手が片方そっと彼女の背中に回り、
そのままそーっと蛍さんの体を畳に横たえてくれるのでした。
蛍さんが目を閉じたまま体を横たえていると、少し頭がくらくら、地面がぐるぐるして感じます。
それで、何だか地面が揺れている気がすると父に訴えました。もしかすると地震ではないかと父に言ってみます。
そうかと父は答え、いや地震じゃないぞと否定します。お父さんは何ともないからお前だけだ、と。
これは頭を冷やした方がいいなと父は言い、お寺さんに水で濡らしたタオルを貰って来ると言います。
ここでじーっと寝ているんだよと蛍さんに注意すると、どうやら彼女の傍を離れて行ったようでした。
蛍さんは畳の上でそのまま寝ていましたが、このぐるぐるした感じが長く続いて収まりません。
幼いながらにこのまま治らないのでは無いかとさえ思えて来ました。
それでくらくらとした目まいに気を使うのに疲れてしまい、本当にぼんやりポーッとして何思う事も無くただ寝ていました。
どの位したでしょうか。ふと気が付くとくらくらとした目まいは治まり、
感覚も落ち着いた五感の感覚が戻って来ているように感じました。
背中に確りと畳の感覚を感じる事が出来ます。普段はこんなにどっしりとした物の受け止め方を感じているのだなと、
自分の知覚神経について初めて認識出来るのでした。
そう思うと、具合の悪さは健康を感じるという上では貴重な体験のような気がしました。
この時蛍さんは、こんな体調の悪さでさえも、何でも経験してみるものだなぁと思うのでした。
体調が本調子に戻ったようなので、そ―っと目を開けてみます。
この時視覚も落ち着いていました。それで目の前に見える本堂の木造りの壁の木目と、
茶色系の色艶を確りと目に映し出してくれました。
すっきりとしてどっしりとした質感や木肌の模様をきちんと視認できます。
目に見える物がよく分かると蛍さんは思います。
いつもこんなによく見えるかしら?、改めて目に映るものを、目で確認して自分は見ているのだなと考えると、
目の働き、目に映るものがどうやって自分に分っているのか等、人体の不思議とまでは考えが及びませんでしたが、
その見えて分かるというまでの繋がり、人の見るという行為がとても大変な事で、
その仕組みが人にとって大変貴重な物だと分かって来るのでした。
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