「変ですかな?。」
マルは答えた。船内のコンピューターに用意してもらった衣装だから完璧な筈なのに、何処にミスがあったのだろうかと訝ってしまいます。今身に着けている衣類は資料で見た僧衣と相違ありません。素材の布地にしても、地球上の現物とそう成分は変わりない筈です。それに、今日は友人に会うのだからと、特別に真新しい余所行きの僧侶ユニホームで来たのです。マルは首を傾げました。
そんな怪訝そうな彼の様子に、地球人男性の紫苑さんは、あららーという感じで声を掛けました。
「そんなに私に気を使う必要は無いですよ、私はあんたの寺の檀家じゃないんですから。」
ニヤリと笑って、彼はこんな冗談を言いました。「それともこの後、どこぞの檀家周りでもあるんですか?。」と、これも半分冗談で言いました。ははははは…、紫苑さんは自分の洒落気にご満悦で声に出して笑いました。空は薫風のこの時期に特有の爽快な青空で、吹く風もからりと心地よい日なのでした。
マルは彼の言葉に酷く嬉しくなりました。
「これは恐縮です。次回からは普段使いのユニホームに致します。」
また、彼は次のようにも続けました。
「何時でも私の寺へお移りください。歓迎いたします。」
そして彼は、「今日の檀家周りはご座いません。皆キャンセルといたしましたから。」と、愛想よく紫苑さんに申し上げるのでした。実際彼は、今日の空での勤務を変更していました。今日はマルの有給休暇の日でした。いえ、地球上の1日の時間と宇宙船の中での1日の時間が違うので、今は彼の空き時間というべきかもしれません。
このマルの言葉に、紫苑さんも彼の事を洒落の分る人物と思い満面の笑みを浮かべるのでした。紫苑さんのご機嫌な様子に、ドクター・マルも満面の笑みで応え、さぁぼちぼち行きましょうと2人は目当ての釣り場へと歩き出しました。
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