彼女のお兄さんから土筆の話を聞いてから、私にしてみると妙な話ばかりが続いています。何が何だか本当に分からなくなり、分からなくなるのが当たり前の状況に追い込まれていると思うと、つくづく今日は変で不思議な日だと思います。もやもやした物を胸に感じ取り、スッキリしない私は漠然とした不安やプレッシャーに見舞われるのでした。
『何とかこの出来事を理解しなければ…。』しなければ、…私は馬鹿だと思われる。そう思うと私はもうパニックになる寸前でした。私は日頃父から、こんな事も分からないのか、分からない者は馬鹿だ、馬鹿なままでいいのか、馬鹿は誰にも相手にされない、世の中に馬鹿程人に嫌われるものはない。馬鹿は家に置いておけない。そんな馬鹿は母の実家に引き取ってもらえ云々、とまで言われ、日常の学習について厳しく躾けられていました。教えている物事が分からないと歯がゆがられ、叱りつけられて来たので、私はこれまでそれなりに様々な言葉や物事を必死で覚え、またそれらは必ず覚え理解するものだという態度を身に着けさせられていました。それが今日は自分の中のどの知識を総動員して来てもさっぱり理解できない事ばかりです。早く理解しなければと思うと、胸には焦燥感が広がるのでした。
暗澹とした気持ちでその場に立ち竦んだまま、見るともなしに施設に並んだ石造りの物体群を眺めていた私は、ふとここから動けば何か分かるかもしれないと思いました。その時のインスピレーションは、訳の分からないこの地点から脱出しようとしただけの事だったのかもしれません。また、この時以前に、親から歩けば何か名案が浮かぶ、と教わっていたのかもしれません。兎に角移動しようとして迷う内に、私は左右へ動くより前進を選ぶとゆるゆると前に向かって歩み出しました。
「何処行くの?」
お姉さんが私の名前を呼んで呼び止めました。もう帰ろう、皆どこかに行ってしまったし、と彼女は私に帰宅を促しました。そこで私が振り返ると、今しがたの彼女の病的な顔はもう何時もと同じく明るくて親しみやすい笑顔に戻っていました。
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