Jun日記(さと さとみの世界)

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ダリアの花、173

2017-05-14 15:34:04 | 日記

 「義姉さん。」

廊下に出て来てそう言う次兄の嫁に、兄嫁は言うのでした。

「如何せ亡くなるのなら、何も長く持たせる事も無いでしょう。」

さっさと始末して、あなたも早目に家に帰ればいいんですよ。自分の子供がいるんだから。

実の母親だって面倒を見ていないんだから。そんなことを兄嫁に言われて、

「そんな事を言って如何しろと言うんです。」

何を如何しろというのかと聞く義妹に、廊下で2人の女性はがひそひそ話しを続けるのでした。

 病院の2階の廊下で、兄嫁達がこんな風に相談をしている頃、

蛍さんの父は彼の父を探し、漸く1階の廊下でその姿を見かけ、彼に声を掛けていました。

 「父さん、私に何か用だって?」

そう聞く息子に、父は何だって?と怪訝な顔をしましたが、

誰がそんな事を言ったのかと聞いて、彼から長兄の嫁の名を聞くと、ははあんと何事か察するのでした。

そして、不思議に微笑みました。

「まあいい、本当にお前を探しに行くところだった。」

如何せ向こうは駄目なのだから、今更急いで見に行く事も無いだろう、彼の父は呟くと、

「向こうさんの電話番号を渡しなさい。」

と、息子に自分の手を差し出すのでした。

 ほら、早くと、手招きする父に対して、息子は何故か胸ポケットを抑え、自分のメモ帳を出し渋ります。

そんな息子の様子に、早くせんかと父が苛立つと、

「父ちゃん、子供の物を取り上げるなんて、親らしくないぞ。」

と息子は文句を言うのでした。

 祖父は呆れて、何を言っている、お前こそ子供みたいにと、

「渡せと言っているんじゃない、見せろと言っているんだ、ほら早く。」

と再び手招きを繰り返します。そして全然言う事を聞かないおっとり刀の息子に盛んに焦れています。

「そんなこと言って、父ちゃん俺からこの手帳を巻き上げる気なんだろう。」

そう蛍さんの父が言ってにやにや笑うと、流石に堪忍袋の緒が切れた祖父は、

ゴン!

と1発、大きなお目玉を食らわせるのでした。

 冗談だったのにと、頭を抱ええた息子から電話番号の書かれた手帳を受け取ると、祖父はその番号に目を走らせて、

直ぐにその頁を彼の目の前でびりっと破り、あーっと言う息子に、あとで紙は返すからとだけ言うと、息子の手帳はその場に投げ捨て、

「おとっちゃん、何処へ?」

と問いかける息子を全く無視して、公衆電話のあるところへ一直線にひた走るのでした。


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