Jun日記(さと さとみの世界)

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親交 21

2019-03-22 10:06:16 | 日記

 その後和やかに歓談し、ひと休みした2人は船内の見学に戻りました。2、3施設を巡った後、2人は自由研究室へもやって来ました。

 ミルは思い出したように地球人男性から借りたこの星の専門書の話を始めました。

「かなり初歩の学問書だからって、これが案外馬鹿にできないんだ。」

彼はその書物の中で、自分が興味本位で行った内の1つの実験の話をしました。

「勿論結果の分かった通りに失敗したんだけどね。」

その実験過程が楽しいんだ。にこやかに面白そうに自分に話すミルに、シルの方は目を丸くして驚いてしまいました。彼女は思わず彼の顔をしげしげと見詰めてしまうのでした。そんな彼女には全然構わず興に乗って話すミルの顔を見詰めたまま、彼女はポカンとした表情のまま彼に返す言葉も無いのでした。

 「…、それで、最後まで反応させて結果を見たんだ。」

「はぁなるほど…。」

シルは答えるとやや躊躇しましたが彼に忠告するのでした。

「研究熱心なのはよいけれど、時というものも考えた方が良いわよ。」

あなたも上級士官を目指しているんでしょう。ロスタイムは出さない方が賢明というものよ。そうさりげなく助言する彼女に、一寸表情を曇らせてミルは答えました。「副長と同じ様な事を言うんだな。」

 『それは…当たり前ね。』シルは思いました。時を争う鋭敏な対応と判断力、行動力が無くては高級士官は務まらない。これ迄多くの上級士官を見てきたシルにはミルの行く末が思いやられるのでした。彼が純粋で知性や能力が申し分なく、かなり優秀な人材にあたる士官だと分かるだけに、ミルの持ち味のマニアックな姿勢がこのまま続くと、この先上官から士官というより研究者向きだと評価されるだろうと判断するのでした。

 「あなたは物を見る目が純粋なのよ。」

褒め言葉の様にシルは彼をそう評価しました。そして彼女はそのミルの持っている純粋さを自身の目の中に光として表すと、美しい宝石の様に瞳を輝かせました。シルのその眩い笑顔は大層美しくミルの心を十分魅了したのですが、彼の目は、彼女のオーラがその表面の輝く瞳や美貌とは裏腹に、今迄全身を覆っていた光彩の片鱗から翳りを帯び沈み始めた現象を見事に捉えていました。

 「ちょっと用が有るのを思い出したんだ。」

「この先は艦内のコンピューターに任せるよ。」

いいよねと、彼はシルの同意を得ると彼女の傍らから去って行くのでした。1人残ったシルはミルのその背がやや沈んだ肩の辺りを見送りつつ、さて、と気持ちを切り替えると、コンピューターに自身が興味のある各施設への道順を尋ねました。彼女は満を持せずしてさっと足早にその指示する方向へと向かったのでした。


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