私はその後も、聞き覚えた子供達の合戦ごっこの言葉を思い出す儘につらつらと並べてみた。こんな時流通している決まり文句は耳に通りがよく、口に滑らかだった。話すに連れ気持ちも高揚してくるようで、ついポンポンと飛び上がり身も弾んでしまう。
と、父はがくりと畳に膝を落として何やら呟いた。その後も私がポンポン弾む毎に両膝を畳に付き、手を着いて、遂には四つん這いの状態で何やら独り言を発し続けている。私はそんな父の、1人相手も無く四つん這いで話続ける動作を不思議に感じて、彼はあんな所で1人何を言っているのだろうかと疑問に思った。そこで意を決すると、少しずつ隣の部屋の父の方へと近付いて行った。
私が父の言葉が聞き取れる場所まで来ると、彼は嫌だ嫌だ、止してくれ、等言っている。見回してみても父の周囲はおろか私自身の周囲にも誰もいなかった。何だろうか、これは何かの儀式だろうか?これから何か始まるのだろうかと私は思った。
父は時折、座敷の仏壇を開くと経本を開き、中のお経を読み始めた。それと同じ事で何かの祝人を唱え始めたのかと私は思った。
「もう勘弁してくれ。」
そこまでしなくていいだろう…。そんな言葉が父の口から出て来るようになると、これは一寸と妙だなと私は感じた。そこでお父さんと、目の前に伏せる彼の肩にちょんと手を当てた。
「止めてくれ!。」
父が大きく言うので、私は何事かと思った。次に彼が言った言葉、蹴らないでくれ!、という言葉に、場違いな奇妙な事を言うと、私が目をぱちくりさせて驚いていると、座敷から祖母が顔を出した。
祖母は緊張した面持ちで父の傍に寄ると、
「如何したんだい?。」
と私に訊いた。訳の分らない私には答えようが無かったので、さぁと言って黙った。
父は俯いた儘ぶつぶつ言っていたが、私にはよく聞き取れなかった。祖母はそんな息子の言葉が聞き取れたらしく、
「お前お父さんをぶったのかい!?。」
とやや険しい顔で私に問い掛けて来た。これは私にとっては意外な質問だった。予想さえしていなかった言葉だ。即座に違うと答えたが、そう言えばついさっきも父は打たないでくれと言っていたなと思い出した。父は誰かに打たれたのだろうか?。私はきょろきょろともう1度部屋の中を見回してみたが、やはりそこには父と祖母、私の3人以外の誰も見えないのだった。
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