その人は彼の中学時代の同級生でした。当時の紫苑さんはそう学問に熱心という生徒ではありませんでした。彼は青少年時代の当時から性格がやや偏りがちな生徒でしたから、自分の気に副わない事があると、ぷいっとそっぽを向いたっ切りで、登校拒否も何のそのという感じでいました。彼はそれでも、結構負けず嫌いという気質から、家庭学習で何とか学業は追いついていました。が、やはりトップクラスの生徒というような成績には至りませんでした。
中学3年生になった時のことです。ある日教室に張り出されていた自分のレポートを、案外良く書けたと紫苑さんが穏やかな笑顔で眺めていた時のことです。彼はクラス委員の坊屋君に声を掛けられました。坊屋君はにこやかな笑顔をその彼の顔に湛えて、気さくに紫苑さんに声を掛けて来ました。
「いいレポートだね。」
僕は君のレポートを読んだけど、いいレポートだと思うよ。と坊屋君は朗らかにさり気無く紫苑さんの書いたレポートを褒めてくれました。
「そうかな。そんなでも無いと思うけど。」
と、内心自信が有っても、ニヒルな感じで謙遜して受け答えした紫苑さんでした。すると相手は意外そうな顔をして、それは解せないというように、無言なまま彼の事を見詰めて来るのでした。そんな彼の反応に紫苑さんはやや気持ちを解いて
「まぁ、それでも、上手く書けた方だとは思うよ。僕もね。」
と相手に同調してみせたのでした。すると坊屋君はやっぱりというように、にっこりすると、そうでしょうとほっとした感じでいいよいいよと、これは紫苑さんをおだてるというより、本当にいい物だと自分の感じた気持ちを素直に表現してくれているようでした。少なくともその時の紫苑さんにはそう感じられました。
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