「来たじゃないか。」
ほらっ!とばかりに蜻蛉君はニヤリと蛍さんの方に一瞥をくれると、さも自分の見解の方が正しいのだと言わんばかりに茜さんに言い放ちました。
「そうじゃない、見ててご覧。」
茜さんの方も、従妹については私の方が訳知り顔という風に彼に小声で囁くと、素知らぬ顔で蜻蛉君から離れて行きました。そして、この場は私は関係無いという様に、きちっと蜻蛉君に背を向けるのでした。
蛍さんの方は、取り合えずこの遊びの今回の勝負だけは終わらせるつもりでいました。彼女はもう勝負など如何でもよかったのですが、
「物事は最後まできちんとするものだ。」
「何でも途中で投げ出してはいかん。」
という、今迄の父の言葉の教え通りに、遊びを勝負半ばにして、自分の怒りに任せプイっとばかりに家に帰るという事が出来ませんでした。彼女は途中で帰るという事に考えが及ばなかったというべきかもしれません。
『終りまで、必ずその場にいなければいけない。』
蛍さんは内心うずうずとした嫌気からくる焦燥感に対抗しながら、辛抱強くその場で頑張るようもう躾けられていたのでした。
『嫌だけど、この回が終わるまでいないと。』
でも、と蛍さんは考えていました。『これが終わって、もしもう一勝負と言われたら、私はしないと言って直ぐに帰ろう。』嫌だけど仕様が無いなと、石を据えながら瞳を伏せて、彼女はこの場にいたくないのを我慢するのでした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます