じりじりとした焦燥感を感じながら、その感情を心の中心から脇へ追い出すよう努力して、彼女は顔を顰めながら地面に置いた石を手に取り転がしました。彼女の内に逆立つ荒波とは逆に、石は順風満帆、極めて順調に歩を進めて彼女の穴の直近に迫ると止まりました。次回を待たなくても蛍さんの勝ちが決まったような物です。しかも抜かされた回数の分がありましたから、続けて石を転がして良いのです。転がす距離もありません。穴にほいと石を置くだけでよいのです。立って行って直ぐ入れようかな、蛍さんは迷いました。
「ナイスだな。」
蜻蛉君が調子よく、にこやかに蛍さんに声を掛けました。すると蛍さんはぷいっとまるっきりの知らん顔です。彼女はにこりともしないどころか先程迄の様にありがとう等の一言の返事も彼に向けて発しませんでした。
2人に背を向けたままの茜さんは、『やっぱりね。』と思いました。彼女はこうなる事を予想しながらこの事態を恐れていました。
『またホーちゃんのお得意のだんまり作戦が始まったんだわ。』
と、早くも気が滅入って来ました。こうなると茜さんにとってもこの遊びは面白い物では無くなり、早く切り上げて帰りたい「とある一件」に変わってしまったのでした。次は自分が石を投げる番でしたが、今振り返ると機嫌の悪い蛍さんの仏頂面と目が合いそうで、彼女は振り向くのを躊躇していました。
そこで、それと気づいた蜻蛉君が彼女に声を掛けました。
「茜の番だよ。」
投げないのかい?
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