塚も動け我泣声は秋の風 (つかもうごけわがなくこえはあきのかぜ)
これは「金沢の段」におかれている句です。
芭蕉が金沢に着いたのは、≪金沢は七月中の五日也≫とある通り七月十
五日です。この地では一笑という俳人と会うことを楽しみにしていました。
≪一笑と云うものは、この道にすける名のほのぼの聞へて、世に知る人も
侍りしに、去年の冬早世したりとて、≫
一笑は十歳代から俳人として活躍し、芭蕉の門下に入ったのはこの旅の二
年前ほどでした。 <一笑という俳諧の道に熱心であるという評判が、いつと
はなしに広がって世間にも俳諧を通じて知る人があったものを、昨年の冬に
若死(36歳)してしまった>
芭蕉は一笑の初盆の法要に招かれます。
一笑の墓前にささげたこの句は慟哭の一句です。
長谷川さんの文章より、
≪ふつう人の別れはまず出会いがあって次に別れるのですが、一笑とは出会っ
てもいないうちに別れていた、別れともいえないあっけない別れでした。≫
一笑の死は元禄元年十二月六日で辞世の句として
心から雪うつくしや西の雲 を遺しています。