kaeruのつぶやき

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12日の幸漢字「心」

2018-06-12 22:31:43 | いち日の言葉

心という字を口にすると詩人佐藤春夫の「秋刀魚の歌」が浮かぶ。

誕生日を前に「二十三歳の私に会える」と喜ぶ翔子さんの「心」と、

詩の言葉・情(こころ)の相違を思う。


秋刀魚の歌


あはれ

秋風よ
情(こころ)あらば伝へてよ
――男ありて
今日の夕餉ゆふげに ひとり
さんまを食(く)らひて
思ひにふける と。

 

さんま、さんま
そが上に青き蜜柑(みかん)の酸(す)をしたたらせて
さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は
小さき箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸(はら)をくれむと言ふにあらずや。

 

あはれ
秋風よ
汝(なれ)こそは見つらめ
世のつねならぬかの団欒(まどゐ)を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証(あかし)せよ かの一ときの団欒(まどゐ)ゆめに非ずと。

 

あはれ
秋風よ
情あらば伝へてよ、
夫を失はざりし妻と
父を失はざりし幼児とに伝へてよ
――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
涙をながす と。

 

さんま、さんま、
さんま苦いか塩つぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは問はまほしくをかし