花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

映画「わたしたちの国立西洋美術館」を見た。

2023-08-23 23:44:57 | 映画

仙台チネ・ラヴィータで映画「わたしたちの国立西洋美術館」を見た。客席は予想以上に埋まってたので、仙台には西美ファンが意外に多いのだなぁと、ちょっと嬉しいかも。

https://www.seibi-movie.com/

内容としては、世界遺産になった西美の改修工事に伴う休館中(2020年10月~2022年3月)の館内の様子が中心で、美術館員のお仕事紹介や、所蔵品購入会議や美術館の抱える諸問題...等々、外からはなかなか窺い知ることのできない領域も紹介され、西洋美術好きには大変興味深い内容だったと思う。特に展覧会に関わる問題の難しさはわかっているつもりだったが、やはり根深いものがあるようで...。

映画としては...と言えば、NHK-BS特集のような教養番組的範疇からあまり出ていないのがちょっと残念ではあったが(解析度はより高かったけど)、まぁ、「みんなのアムステルダム国立美術館へ」のような美術館と市民との「すったもんだ(;'∀')」があるわけではないので、映画的面白さ(?)を求めてはいけないのかもね。

で、驚いたのは、前庭改修工事の様子の紹介で初めて知ったのだが、何と!この前庭の下に展覧会場が在るのだとか!! なので、庭には防水対策を施しているそうだ。次回展覧会に行ったら、天井の上に《カレーの市民たち》もいるのだなぁ、と見上げたい。

ちなみに、庭のロダン彫刻の移動に際し、台座の中の点検場面があったのだが、思わず映画「ノートルダム炎の大聖堂」を想起してしまった。あの映画の中で一番驚いたのも、聖遺物レプリカの台座の中に本物が収納されていたことで、台座って侮れないのだなぁと再認識してしまった。

さて、映画の中には見覚えのある所蔵作品が色々カメオ出演していたが、オープニングを飾った(?)のはスルバラン《聖ドミニクス》だった。コメント無しだが、常設展示の中でも特に目を惹く作品だしね

フランシスコ・デ・スルバラン《聖ドミニクス》(1626-27年)国立西洋美術館

更に、リニューアル後初の展覧会(2022年4月)に向けての設営過程も知ることができたが、フォルクヴァング美術館と西美作品のコラボによる「自然と人のダイアローグ」 展は私も観ている。

https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/5767ce4a599f0cb30217b17666fea781

私的に特に気に入ったのは、モネ《舟遊び》とリヒター《雲》が並んだコーナーだった。映画でこのコーナー設営の様子がズームされていたので、やはり西美としても力の入った二点並びだったのだなぁと納得だった。

(左)クロード・モネ《舟遊び》(1887年)国立西洋美術館 (右)ゲルハルト・ヒヒター《雲》(1970年)フォルクヴァング美術館

で、2021年夏には国立美術館の出張展覧会として西美コレクションによる「山形で考える西洋美術」が山形美術館で開催された。私もこの展覧会を観ていたので、それに関連して、西美の担当学芸員さんのコメントに違和感を覚えたので、大人気ないけどちょっと言わしてもらうね(ごめんなさい)。

そのコメントは、山形へのティツィアーノ作品出展は特別で貴重なんだからね、みたいなニュアンスで、それって上から目線じゃない?と感じてしまい...。私的に一時期ティツィアーノ追っかけもしていたので、あの工房作品で「感謝しろ」的な言われ方されてもねぇ(;'∀')(地方の美術ド素人の勝手な僻みですみません)。

と、文句を言ったものの(汗)、映画でも紹介されていたが、震災で被災した石巻市出身の彫刻家・高橋英吉関連の資料の洗浄修復への西美の助力には心から感謝している。石巻文化センターは海に近い河口にあったから...《海音》などが無事だったのは石巻市民にとってせめてもの救いであったし...。

ということで、東アジア最大級の西洋美術コレクションを誇る国立西洋美術館とそのお仕事を知ることのできる貴重な映画であった。館長を始め学芸員さん、スタッフの皆さん、これからも頑張ってくださいませ


映画「わたしたちの国立西洋美術館」?!(^^;

2023-06-19 19:39:29 | 映画

なんと!映画「わたしたちの国立西洋美術館~奇跡のコレクションの舞台裏~」が7月15日からロードショー公開されるようだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2df226c06783ba61bc9e89ec6470b0e0980d1aae?page=1

※映画公式サイト:https://www.seibi-movie.com/

※予告編:https://www.youtube.com/watch?v=avTh36Mpo7I

なんだか、映画「みんなのアムステルダム国立美術館へ」をめちゃ意識しているような題名で、思わず苦笑してしまった(すみません)。仙台でも上映されるようなので、できたら見てみたい。

でもねぇ、予告編を見ながら、「わたしたちの」であり、「みんなの」では無いのだなぁとわかりました。


映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家(Ennio)」を見た。

2023-02-28 20:04:23 | 映画

2月上旬に仙台フォーラムで、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家(Ennio)」を見た。

https://gaga.ne.jp/ennio/

数々の映画音楽を作曲家したエンニョ・モリコーネ(Ennio Morricone、1928 - 2020年)のドキョメンタリー映画である。

この映画で初めて知ったことも多かった。エンニョ・モリコーネの父はトランペット吹きで、息子を自分の後継者にしたかったが、エンニョは聖チェチリア音楽院で学びながら作曲に興味を抱く。イタリア現代音楽の大作曲家ゴッフレド・ペトラッシに師事するのだから、まさしく彼は現代音楽の作曲家なのである。でも、生活費を稼ぐため、ジャンニ・モランディなどのカンツォーネの編曲も多く手掛けていた。

で、おおっと驚いたのは、あのジョン・ケージの演奏(パフォーマンス?)も見ていることで、多分、影響も受けたのだろうね。彼の映画音楽の楽器以外の音が多く使われているのも(例えば鞭の音とか)了解できるのだ。モリコーネの抒情的な旋律に膨らみを持たせているものは、前衛的な現代音楽のセンスなのかもしれない。

私たちにもお馴染みの数々の映画シーンを盛り上げる音楽、モリコーネの音楽は監督にも優る忘れられない名シーンを演出していたように思う。特に、幼馴染セルジョ・レオーネ監督と組んだマカロニ・ウエスタンの斬新な映画音楽!!

ちなみに、レオーネ監督が黒澤明監督の「用心棒」を見て...、というコメントと「用心棒」のシーンが出て、日本人的にはグっときてしまう。偉大なるかな黒澤映画!!

「荒野の用心棒( Per un pugno di dollari )」(1964年)、「夕陽のガンマン( Per qualche dollaro in piu )」(1965年)、「続・夕陽のガンマン( Il buono, il brutto, il cattivo)(1966年)....

なにしろ「Ennio Morricone - The Best of Ennio Morricone - Greatest Hits」の第1曲目は映画「続・夕陽のガンマン」の「The Ecstasy of Gold(L'estasi dell'oro)」なのだから

https://www.youtube.com/watch?v=Jjq6e1LJHxw

ついでに、エンニョ・モリコーネ指揮のヴェネツィア、サン・マルコ広場!でのコンサート動画。彼の背後にサン・マルコ寺院が見えるというのは、まさにスペクタクルだと思う。

https://www.youtube.com/watch?v=J3IlqY1CbI0

で、この「The Ecstasy of Gold 」と言えば、HM/HR好きはすぐに METALLICA(メタリカ)のライヴのイントロとして想起してしまうのだよね。映画でもジェームズ・ヘットフィールドにインタヴューしていたし。ライヴでの皆で合唱はお約束(笑)。

※ご参考:「Metallica - Ecstasy Of Gold & Blackened  (2009 Nimes)」

https://www.youtube.com/watch?v=kQrvb3i1q-E

ちなみに、前回のブログ記事で「探しものをしていた」と書いたのは、実は持っていたはずのメタリカ「S&M」(サンフランシスコ交響楽団&メタリカ)のDVDを探していたのだ。やはりイントロは「The Ecstasy of Gold」だったから。

でも、見つけられなくて、代わりに(?)「レンブラント」DVDを発見したのだった


『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が実写映画化!!

2023-01-05 18:17:10 | 映画

いやぁ、驚いてしまった。『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が実写映画化のニュースが!!

https://news.yahoo.co.jp/articles/7805a12403a5d0a098dfed8a846eb49c2c6bcbd3

特報動画:https://www.youtube.com/watch?v=wetqJZ4HphM

岸辺露伴先生も泉京香ちゃんもNHK「岸辺露伴は動かない」の延長線上って、はやり嬉しい

ちなみに、渡辺一貴監督:映画「暗殺の森」で描かれるパリは退廃的で陰鬱だ。って!!

ベルナルド・ベルトルッチ監督「暗殺の森(Il conformista)」と言ったら、あのダンスシーン。ドミニク・サンダが美しかったなぁ。撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの腕も良かったと言うべきかも。

https://www.youtube.com/watch?v=PS7h9vnsUs8

懐かしい作品だが、今もう一度見るなら、イタリア語にも耳を傾けたいなぁと思う。


映画「レンブラントは誰の手に」を見た。

2021-04-19 22:43:45 | 映画

宮城県「蔓延防止等重点措置」実施前に、滑り込みで映画「レンブラントは誰の手に」を見た。

http://rembrandt-movie.com/

感想を言わせてもらえば、題名は原題の「My Rembrandt(私のレンブラント)」にした方が良かったと思う。「レンブラントは誰の手に」だと感想も「ビミョー」と言うしかなくなるからだ。

なぜならば、ストーリーは3つの「私のレンブラント」をめぐる物語が交互に語られるもので、超サクッとまとめれば…

  • バクルー公爵偏愛の所蔵作品のお屋敷内移動のお話。
  • 画商ヤン・シックスによるレンブラント(?)作品鑑定・落札・出し抜き問題。
  • ロスチャイルド男爵所蔵作品売却に伴うフランスとオランダの入手競争と落着。
  • ちょこっと:アメリカの成金富豪のレンブラント・コレクション事始め。

すなわち、それぞれのレンブラント愛が語られるわけで、お金や名誉(個人も、国家も!)が絡むとややこしくなるのは当然と言うべきか、その辺をカメラは追うわけだが、「みんなのアムステルダム国立美術館へ」と比べると、どうも立ち上る皮肉やユーモアの冴えがイマイチなのだった(スミマセン)。

多分、扱う対象が「みんなのアムステルダム…」では館員や市民であるのに対し、「私のレンブラント」では所有者・研究者・画商・国家等の利害関係者であり、前者(みんなの)と後者(私の)ではその位相が異なるためだと思うのだ。敢えて言わせてもらえば、その奥のドロドロへのツッコミもちょっと浅いかも、と思った

下記↓写真は2019年2月に撮ったもので、当時、アムステルダム国立美術館に展示されていた、旧ロスチャイルド男爵所蔵「ソールマン夫妻の肖像」1対(2点)。

レンブラント《マールテン・ソールマンの肖像》(1634年)

レンブラント《オープイエ・コピットの肖像》(1634年)

ちなみに、某先生の講座でこの映画が話題になり、受講者仲間が先生に「ヤン・シックスのレンブラント(?)作品はどう思われますか?」と質問した。「なんとも言えないですね。解釈の問題になると思います。」とのことだった。

映画にはレンブラント・リサーチ・プロジェクト(RRP)のウェテリンク教授(Ernst van de Wetering)も登場するが、先生にRRPの活動や終了経緯、併せて、故ブルイン(Josua Bruyn)とウェテリンクの師弟関係、レンブラント真贋判定における複雑な諸問題なども教えていただいた。真贋判定って単純ではなく、本当に色々複雑で難しいものなのね


映画『レンブラントは誰の手に』が公開。

2021-02-25 16:44:48 | 映画

映画『レンブラントは誰の手に』が明日(2月26日)から公開されるようだ。あの『みんなのアムステルダム国立美術館へ』のウケ・ホーヘンダイク監督の最新作である。

http://rembrandt-movie.com/

「バロック絵画を代表し、没後350年以上経った今でも絶大なる人気を誇るオランダの巨匠画家、レンブラント。彼の作品を画商は見出し、貴族は愛し、コレクターは買い求め、美術館は競い合う。…(中略)…レンブラントをめぐる人間喜劇であり、芸術についての根源的な問いを私たちに投げかける。美しい絵画を巡って、アートに惚れ込んだ人間たちの愛と欲がエキサイティングに交錯するドラマティック・ドキュメンタリー。」(公式サイトより)

仙台でも「チネ・ラヴィータ」で3月26日から公開予定のようで、楽しみだ

ちなみに、予告編に「フェルメールと並びオランダを代表する画家」と字幕が出ているが、それってレンブラントに対し失礼じゃないかと思う。例えば、ラファエッロ映画の予告編に「カラヴァッジョと並ぶイタリアを代表する画家」なんて誰が言う?? カラヴァッジョ偏愛の私だって絶対に言えない。この配給会社の感覚って、なんか変っ!!!


映画「盗まれたカラヴァッジョ」を見逃した(涙)

2020-05-25 18:07:25 | 映画

コロナウィルス騒ぎで、映画「盗まれたカラヴァッジョ(Una storia senza nome)」が仙台でも上映されたことを知らなかった!!

https://senlis.co.jp/caravaggio/

カラヴァッジョ《聖ラウレンティウスと聖フランチェスコのいるパレルモの生誕》(1600-09年)

悲しいけれど、DVD化されレンタルに出るまで待つことになりそうだ


映画「パラサイト-半地下の家族」を見た。

2020-02-25 20:46:04 | 映画

今年のアカデミー賞作品賞を受賞した韓国映画「パラサイト」を見た。

http://www.parasite-mv.jp/

外国語映画賞ではなく作品賞であることが話題になったが、多分、テーマが韓国だけでなく米国も(日本も世界も)抱える大きな課題である「格差」だからこそだろう。それをアイロニカルで上質なエンターティメント作品に仕上げたところが勝因だったのかもしれない。

半地下の家に住む無職で貧乏な家族が、高台にあるお金持ちの家に就職し寄生して行く。その寄生計画の実行過程が実に面白い。しかし、その豪邸には秘密があった…。豪雨のある日から一家の計画が狂って行く。

豪雨の出水が「階段」を、道路を、奔流となり下って行くシーンは象徴的であり見事である。氾濫した汚水が流れ込む半地下の家の様子と言ったら…。

ネタバレになりそうなのでこの辺でやめるが、最初から最後まで目が離せない映画的面白さを楽しみながらも、格差社会の悲哀を想う時、やはりポン・ジュノ監督の手腕を称賛したくなる。


映画「ヒトラーVS.ピカソ」DVDが出る。

2019-09-20 23:50:43 | 映画

前にも書いたように、映画「ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ」を見逃がしたので、DVDレンタルにならないかなぁ?と検索してみたら、11月2日(土)にレンタルされるらしいということで、自分用ののメモとして...

https://tsutaya.tsite.jp/item/movie/PTA0000YC8RB

実は、映画の公式HPイラストにカポディモンテ美術館のパルミジャニーノ《アンテア》を運ぶナチス軍人2人が描かれていて、これはざひ見なければ!と思ったのだ。

パルミジャニーノ《アンテア》(1520年)カポディモンテ美術館 

さて、ようやく『モニュメント・メン』の文庫版『ミケランジェロ・プロジェクト』(角川文庫)を読み終えた。読みにくい構成だったが、映画(フィクション)と違い、取りあえず当時の全容がわかったのが良かった。特に私的に注目したのが....

1945年5月2日、ソ連赤軍部隊がベルリン入場、戦利品旅団が動物園高射砲塔を漁る。5月3日~5日、フリードリヒスハイン高射砲塔を調べる。

「彼らは貴重な美術品が2階と3階に無傷のまま置かれているのにもかかわらず、衛兵を配置しようとしなかった。5月5日...間もなく2度目の火災が起こった。それは最初の火災より大規模だった。塔の中のもの-彫刻、陶磁器、本、ボッティチェッリ1点、ヴァン・ダイク1点、カラヴァッジオ3点、ルーベンス10点、ヘルマン・ゲーリングのお気に入りの画家ルカス・クラナッハ父の5点を含む434点の油彩-は消失されたと考えられた。それは、空白時期の最新の犠牲だった。」

なので、私的には、もしかしたらカラヴァッジョ3点をソ連が持ち去ったかも?疑惑が残るのだ。それとも、高射砲塔に入った泥棒が持ち去った可能性もあるかもしれない。もちろん妄想なのかもしれないが、焼失してしまった現実が残念で悲し過ぎるのだよ


リュック・ベンソン監督「ジャンヌ・ダルク」(DVD)を観た。

2019-07-24 00:28:55 | 映画

リュック・ベンソン監督の映画(DVD)「ジャンヌ・ダルク」を観た。

 

冒頭から史実には無い英国兵による姉の殺害事件があったり、ジャンヌの心の声としてジャスティン・ホフマンが登場したり、この映画はあくまでもリュック・ベンソンのジャンヌ・ダルク解釈の映画だったと思う。それでも、主演のミラ・ジョヴォヴィッチも健闘していたし、シャルル7世役のジョン・マルコヴィッチも良い味出していたし、義母ヨランダ役でフェイ・ダナウェー登場も驚いたし、ジル・ド・レ役のヴァンサン・カッセルがカッコ良かったし、なかなか楽しめる映画ではあった。 

が、私がこの映画(DVD)を見ようと思ったのは、ブルゴーニュ公はどう描かれているのか?であり、予想通りフィリップ・ル・ボンは登場した。しかし!シャトランもコミーヌも対面の様子は書いていないとは言え、薄毛頭の風采の上がらぬ男が薄っぺらキンキラの服の上に金羊毛騎士団首飾りをして登場したした時には、ウッソー! と叫んでしまった。だって、ネーデルラント都市をも支配するブルゴーニュ公国は、当時、宮廷の豪華さとフィリップ・ル・ボンの優美なお洒落で有名だったのだから、あんな「ちゃらい」ブルゴーニュ公が登場するなんて信じられなかったのだ 

ロヒール・ファン・デル・ウェイデン帰属《フィリップ・ル・ボンの肖像》(1450年頃)ディジョン美術館

でもね、それは多分リュック・ベンソンがフランス人であるからこそだったのかもしれない。 

マルク・ボーネ『中世ヨーロッパの都市と国家』(山川出版)を読むと興味深い記述があった。

「こうしたやり方(「国民国家」につながるはずだという目的論的観点)で、ブルゴーニュ公たちが実際におこなった中世末期の国家形成を振り返るならば、それはたんに三つの面を持つ歴史事象になってしまうだろう。フランスの場合、ブルゴーニュ公たちは国家の大義への裏切り者と考えられた(そしてある程度はいまだにそう考えられている)。・・・ベルギーの場合、・・・ブルゴーニュ公たちは、伝統的な(そしておおいにロマンチックな)歴史叙述において、フランス系の文化背景を持つ、別種の外来の支配者と考えられていた。・・・オランダの場合、・・・ヨハン・ホイジンガ・・・が主張するのは、オランダ史の流れのなかでブルゴーニュ国家というものを語ることになるなら、1477年(フランスとの結びつきが決定的に断ち切られたとき)に始め、1579年に終わるようにすべきということである。」(p104~p108

まぁ、視点を変えれば見え方も違うのは仕方がないことでもある。例えば、ジャン・フーケの《シャルル7世の肖像》である。

ジャン・フーケ《シャルル7世の肖像》(1445ー1450年)ルーヴル美術館

だって、堀越孝一『ブルゴーニュ家』(講談社現代新書)を読むと、ずる賢さを感じるし、佐藤賢一『ヴァロワ朝ーフランス王朝史2』(講談社現代新書)を読むと、思慮深いのかなぁと思うし。と言っても、ルーヴルで観た時もブルゴーニュ公贔屓の私には結局「ずる賢いキツネ」のようにしか見えなかったのだけどもね