尾崎彰宏・著『静物画のスペクタクル』(三元社刊)を読みながら、北方(オランダ)における静物画の成立過程について興味深く勉強してしまった。
http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/528.htm
以前にも静物画の起源について書いたことがあり、その中でネーデルラントの静物画起源の例としてハンス・メムリンク《花瓶の花》についても触れたが、キリストと聖母を象徴する宗教的を意味含んでいる。
https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/fcbaeb845d6ba6cb31b5944709c1adfc
ハンス・メムリンク《花瓶の花》(1485年頃)ティッセン=ボルネミッサ美術館
https://www.museothyssen.org/en/collection/artists/memling-hans/flowers-jug-verso
しかし、メムリンク作品に先行し、ネーデルラントの静物画の成立過程で、中世写本における余白装飾に新たな展開があったのだよ!!
普通の写本は聖書場面を描いた余白に装飾模様を描いているのだが、例えば『トリノ=ミラノ時祷書』では...聖書場面を絵が描いた枠外の余白装飾として、彩色された蔦模様と天使たちが描かれている。
《トリノ=ミラノ時祷書》(1425年頃)トリノ市立美術館
《ブルゴーニュのマリーの時祷書(独語: Stundenbuch der Maria von Burgund)》は、1477~82年頃にフランドルで完成し、おそらく、ブルゴーニュ公家継承者のマリーとマクシミリアン1世との結婚を祝し、継母マーガレット・オブ・ヨークが作らせたと考えられている。
ブルゴーニュのマリーの画家《十字架に釘で打ちつけられたキリスト》(1477~82年頃)オーストリア国立図書館(ウィーン)
「それまでミニチュアールでは欄外にあったモチーフが絵画空間のなかに入り込んでいる。明らかに宗教場面と対立する静物画モチーフが絵画空間に迫りだしてきたのである。このことによって静物を仲立ちとして、宗教画空間と世俗空間とが連続するようになった。」(P44)
この作品を見ていると、後のピーテル・アールツェン(1508頃-1575)からベラスケス《マルタとマリアの家のキリスト》への流れが容易に想像できるのが面白い。
ちなみに、ヴィクトル・ストイッキッツァは「オランダで自立した静物画の記念碑的一歩をしるした作品として」ジャック・デ・ヘイン2世(1565–1629)の静物画を挙げているそうだ。
ジャック・デ・ヘイン2世《 ヴァニタスをあらわす静物画》(1603年)メトロポリタン美術館
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/436485
イタリアではカラヴァッジョが、オランダではデ・ヘインが、ほぼ同じ頃に「自立した静物画」を描いていることが興味深い。カラヴァッジョ《果物籠》が同じヴァニタスの意を含みながら、作風の違いが面白くもある。